もし第3次世界大戦が起こったら
2016年6月10日(金)17時45分
イアン・シールズ(英アングリア・ラスキン大学講師、国際関係論)
ウクライナを舞台に世界大戦への代理戦争が行われている。
<NATOの元高官による近未来小説『2017年ロシアとの戦争』のシナリオは現実にもあり得るか? 可能性は低い。だがひとたびNATOとロシアの戦争が始まれば、宇宙も含め世界中で高性能兵器が飛び交い破壊の限りを尽くす「人類戦争」になるだろう>。
第三次世界大戦(以下には超大国の米中が除かれている)
とはいえ、仮にロシアとの戦争に突入するとしたら、どんな戦争になるだろう。
ロシアとNATOの軍事力を比べると、NATOの方が格段に規模が大きい。隊員数はNATOの360万人に対しロシア軍は80万人、戦車はNATOの7500台に対しロシア軍は2750台、戦闘機はNATOの5900機に対しロシア軍は1571機といった具合だ。
だが、こうした数字だけでは実態はつかめない。
NATOの軍事力は世界各地に配置されており、ロシアとの差は歴然としている。たとえロシアがバルト三国に一時的に侵攻することができたとしても、長く持ちこたえられるとは思えない。
また、戦争の質も違う。ミサイルや砲撃の射程が格段に伸び、誘導爆弾の命中率や有効性が上がり、宇宙にまで監視体制が広がったことを考慮すれば、現代の戦争は極めて壊滅的な被害を与え得る。チェチェン共和国の首都グロズヌイやシリアのアレッポなど比較的小規模の紛争でも甚大な被害が出ているのがその証拠だ。
戦闘部隊の規模は、第二次大戦時と比べると小さく見えるかもしれない。だが死者数や破壊力で見ると、現代の戦争の方が影響力は遥かに大きく、復興にもはるかに長い時間を要するだろう。
軍艦や空母を世界の至るところへ配備し、戦闘要員も民間人もお構いなしに攻撃するような戦争はまさに世界大戦と呼ばれるものであり、そうした戦いに「戦場」という用語を使用すること自体が大きな誤解を招く。そのような戦いは人類戦争と呼ばれるべきものだ。
核戦争の可能性は低いが
それは地球上だけで起きるのではない。宇宙空間をめぐる国家間の競争は、サイバースペースをめぐる争いに匹敵するほど激しくなると予想される。各国の政治やインフラ、情報、経済など、様々な領域に関わってくるからだ。
シレフの警告に反して、NATOとロシアによる核戦争の可能性は極めて低いだろう。というのも、双方とも最終的にそこまでの壊滅的被害を望んでいないからだ。万一、化学兵器や生物兵器を用いる場合でも、非常に狭い範囲で、わずかしか使用しないだろう。
だからといって、戦争によってもたらされる損害の規模を過小評価すべきでもない。もしNATOとロシアの間で全面戦争が起きれば、インターネットから株式市場、宇宙空間まで、想像の及ぶあらゆるものが前線と化すだろう。
確かにシレフの小説には、なるほどと思わせるところがある。
NATOに対してより強硬な外交政策を掲げ軍事費を増大するよう求める声は現実にもある。だがだからといってロシアの政治指導者を話が通じない相手と切り捨てるのは短絡的過ぎる。
結局のところ、第三次大戦という話になれば、ロシアもNATOも失うものが多すぎるのだから。