中国「コロナ感染爆発」の衝撃 鮮明となった「習近平一強体制」の弊害 北京市で市民の感染率80%との分析 夕刊フジ
【ニュース裏表 峯村健司】 「陽過了」 年末年始、ウェブ会議システムや電話を通じてやりとりした中国の友人25人は、時にせき込み声をからしながら、こうつぶやいた。
中国語で「陽性になったこと」という意味で、「新型コロナウイルスに感染した人」を指す。
いずれも40度近い高熱を出しており、せきや味覚障害などの後遺症に苦しんでいた。
【イラスト】マスク有無で15分会話した場合の感染確率 高齢者を中心に亡くなる人も後を絶たず、北京市の火葬場は飽和状態で2週間待ちのところもあるという。
北京市で昨年11月以降、市民の感染率が80%に達したとの専門家の分析とも一致する。
「2年余り国民に厳しい行動制限を強いてきた『ゼロコロナ』政策は正しいと政府は言ってきたのに、突然、緩和するから感染が爆発した。政策に一貫性を欠いていると言わざるを得ない」 中国政府で勤務していた友人はこう憤る。
普段は習近平指導部の政権運営を礼賛している人物だが、よほどコロナ政策に不満があったのだろう。
中国当局が新型コロナの感染者数や死者数の公開を一時停止したことが、人々の不安を駆り立てる。
中国のSNS上で拡散された中国国家衛生健康委員会の内部の会議録とされる文書によると、昨年12月20日の新規感染者数は3700万人に上った。
今月7日からは「春節(旧正月)連休」に伴う大規模な移動が40日間ほど続き、さらなる感染拡大が懸念されており、死者が200万人を超えるとの予測もある。
なぜ、中国政府のコロナ政策は、これほど極端にぶれたのだろうか。「習近平一強体制」がもたらした弊害だ、と私は考える。
2018年に出版した拙著『宿命 習近平闘争秘史』(文春文庫)の中で、私は「『一強体制』が中国の最大のリスクになりうる」と指摘した。
1980年代から続いてきた「集団指導体制」から、習氏による「一強体制」になることで組織の指揮系統が硬直化し、チェックアンドバランス機能が働きづらくなる。それによって、指導部が正しい情報収集や分析ができなくなり、政策決定過程が滞ったり誤ったりするリスクも増大しかねないからだ。
習氏が自ら意のままの指導部人事を築いて「3期目」に踏み出した約1カ月後、「ゼロコロナ政策」に抵抗する運動が中国各地で起こった。
厳しい情報統制を敷く中国国内のSNS上で、「習近平退陣」「共産党打倒」のスローガンが掲げられた映像が出回ったことは、指導部に少なからぬ衝撃を与えたようだ。
国民の声に押されるかたちで、看板政策の事実上の撤回に追い込まれたのだ。
(キヤノングローバル戦略研究所主任研究員、青山学院大学客員教授・峯村健司)