ここ数年、毎年のように駒ケ岳ロープウエーで千畳敷まで上がり 宝剣や三の沢岳に登っているが、ロープウエーが出る「しらび平」まで自家用車禁止のバス専用道路を行く途中に 檜尾岳登山口という いかにも気になる急階段を毎回目にして、あそこから登れないものかと調べたが、コースタイムを合計すると頂上まで6時間35分・・・ダメだ!
それでなくてもコースタイムの1.2掛けくらいのペースのオレじゃ とてもじゃないけど ムリ。
しかし下りを合計すれば、4時間25分 ギリ何とかなりそう?ロープウエーで千畳敷まで上がり そこから檜尾岳までのコースタイムは3時間40分。檜尾根を降りてバス停まで合計8時間越え・・・しかも休憩時間はコースタイムに入ってない・・・
だけどなんてったって4時間半は下りだろ?なんとかなりそうな気もしないではないが、やはり一人じゃ不安のほうが大きく 正月にダイヤモンド富士に連れて行き、今年は中学3年で高校受験があるからもう行けないと言ってたメイの子供をダメもとで誘えば 塾の夏期講習が始まる前の2日間空きがある?どうしてもあの登り口の階段に立ちたくて、城好きのヤツに前日、高遠城に連れて行くという交換条件で日曜の昼前にレッツゴー。
天気ヨシ、カーラジオから ♪麦わら帽子は もう消えた~ 田んぼのかえるはもう消えた~ それでも待ってる夏休み~
吉田拓郎の「夏休み」が聞こえてきて この歌知ってる?「知らない」
吉田拓郎は?「ダレ?それ?」
中央道を諏訪で降り 途中の杖突峠の茶屋でソバ食って、2階の展望台に上がると
諏訪湖が見渡せ、テンクラの予報もオールAに変わって、いいぞ!
伊那に抜ける峠道をひた走って 高遠城址。春には小彼岸桜で賑わうここも閑散として 城跡だけが残ってるこの城のことを少しは知ってるの?と聞くと、「織田の大群に攻められて、城主の仁科盛信がハラ切ってはらわたを壁に投げつけたから高遠のサクラは赤いって言われてるんだよ」
へ~、吉田拓郎は知らなくても ヘンなこと知ってるんだな。
だけど、絵島事件のことは知らんだろうな。
さすがにそこまでは詳しくないか・・・
死ぬまでこの囲いの屋敷の中で過ごしたんだよ。
城址から絵島の屋敷まで歩いて10分くらいのものなのに上がったり下がったり大汗をかき、明日ダイジョブだろうな。
そこから伊那に抜け、駒ヶ根のホテル泊まり。
スマホの扱いは慣れたもんのヤツに、始発バスは何時に出るのか調べてと頼めば6時?明日は月曜、平日か~。 休日なら5時に臨時便が出るのに予定が1時間狂ったな。
1時間は大きいぞ。
朝、コンビニに寄っておにぎり3っつづつな。オレ4っ?いいよいくらでも その代わり背負ってくれよな。他にバナ~ナ2本と水は3本づつ。うち2本は冷凍もの。さすがに水は自分で背負ったが他は全部預けて、シェルパだな。重くねえ~か?
「毎日30分歩いて学校に行くときはもっと重いよ」
小学校4年のとき、初めて山梨の山に砂金掘りに行くと連れてって 2万円の入った財布を拾ったときはひょろひょろだったが中学でバドミントンクラブに入って身体ががっしりして来た。
もうすっかり慣れた菅の台バスセンター。ベンチにザックを場所取りで置いて キップ売り場に並べばみるみるうちに長い列ができて 休日でもないのに好きな人がたくさんいるんだな~。
オイッ、もし最終バスに間に合わなかったらいけないから あそこのタクシー会社の看板の電話番号、シャメ撮っといてよ。
恋の片道切符じゃなくて、恐怖の片道切符だな。どうせ知らんだろな その歌・・・
途中のバスの窓から見えた檜尾岳登山口の大きな看板に ここまで降りてくるんだぞ。
しらび平らでバスを降り、係員にバスの最終は何時か?と聞くと5時20分。5時くらいだと思ってたから少しほっとして ここから檜尾橋まで10分と見りゃ5時半だな。まあ、それまでにはなんとかなるだろ。
ロープウエーに乗り換えて7分、標高2600mまで連れてってくれる。
終点、千畳敷の駒ケ岳神社にお参りし じゃ行くぞ~!
リュックパンパンだな。大体が小せ~よ そのリュック。
「お母さんが小さいの持ってけって言ったから・・・」
オレのまで背負わされるの わかってたか?
さっそくキバナノコマノツメ。
真ん中奥のとんがってるのが宝剣、その左がサギダルのアタマってやつか?
ロープウエーの駅に下から雲が上がってきた。
反対側は快晴。
極楽平。来るたびに傾げの角度が大きくなってないか?
6時50分出発7時20分、コースタイム(以下CT)通りの30分。上出来やが。
あんた中学3年っていくつ?
「15」
15の夏か~。
山登り3回目のシェルパを連れて58歳差のコンビで行く尾根筋。
足元のヒメウスユキソウの脇に腰を下ろして とりあえずおにぎり1個。
檜尾岳避難小屋の下に水場があるらしいけど 地図に「細」って書いてあるから 出てるかどうかわからん。そこまでに2本は残しておけよな。長い下りで水が切れたら死ぬぞ。
こんな景色、見たことないだろ。今のうちに楽しんでおけよな。下りが長く辛くなるのはわかってる、と自分にも言い聞かせて・・・
ウサギギクやハクサンイチゲの群落。
極楽平から濁沢大嶺までのCT90分。
三の沢岳もこちら側から見るとでかい山容だな~。
尾根筋を上り下りしていたらウシロからアタマに手ぬぐいを巻いた山男が追いついてきて ”どちらまで行くのか?”と聞くと檜尾岳の避難小屋の改修工事の手伝いとか。あそこはクラウドファンディングで集めた金で小屋を建て直すんでしょ?ネットで聞きかじったことを言えば、建て直すんじゃなくてヨコに建て増して管理人が常駐するようになるんです。
駒ケ岳や宝剣から空木まで長い尾根筋には、中間に当たる檜尾岳に避難小屋があるだけでテントを張る場所もなく 遭難者も多く出してることから そういう話が持ちあがり 只今、建設中なんだとか。
タカネツメクサ。
オレたちは、檜尾岳から尾根を下って檜尾橋まで行きます。
「ずいぶん、ハードな行程ですね」
山男にハードと言われ、言い訳がましく ”檜尾に11時、それから5時間かけてゆっくり降りる予定ですけど・・・”
そのあとも山男は 追い抜かずに我々のあとをついてきて 「ムスコさんが先頭じゃなくてお父さんが先に歩いたほうがいいですよ」
”ムスコじゃなくてメイの子供、日本語でなんとか言うらしくて調べたけど忘れた”
「お父さんのほうは 昔私達、大叔父って言ってましたね」
それから しばらく山の話などしながら、「メイの子供さんは もう少し一歩を慎重に踏み出したほうがいいですよ」
確かに、飛ぶように歩いてたもんな。
オレは先頭に立って知らず知らずに早歩きになってたか?「お父さん、もう少しペースを落として・・・これじゃ2時間で檜尾に着いちゃいますよ」
高山植物を見つけ、写真を撮るからと先に行ってもらってから、シェルパに”オレに先頭に立てって、どういうイミだったんかね~”
「ボクのペースが速くて、オジさんが付いていけないと思ったんじゃない?」
そうかな~、アンタが危なっかしくて オレを見て歩けって言いたかったんじゃない?
濁沢大嶺着。去年はここまで来て雨と暴風で引き返したところ。もっとも去年は晴れていても檜尾根を下るなんて考えもしてなかった。
極楽平を7時20分に出てCT90分のところを8時28分、ここの区間は68分でクリア。大分稼いじゃったな~、山男のお陰か?
岩陰でオマエの荷物を軽くしてやると、バナ~ナ1本ほうばり、効くと思って飲めば効くらしいアミノバイタルの顆粒を飲み込み、シェルパにも飲んどけと渡すと、マズイ!良薬口に苦しだ。さあ、次の檜尾岳めざし CT100分の行程。
生まれて初めての鎖場か?
鎖に頼りすぎるなよ。浮石に乗るなよ。
ワッかに登山靴を載せて降り、
あの見えてる山が檜尾か。その先の雲がかかってるのが空木だな。
アッ、ちょっと下に小さくカマボコ型の避難小屋が見える。写真じゃ見えないけど・・・
ああいうへこんだところをアンブって言うんだよ。どういう字を書くかわかる?
「安心の安?」
安心できねぇよ。鞍って書くの、馬の鞍に形が似てるだろ?
階段は後ろ向きになってな・・・
ナニに聞いたけどあんた、小さい頃は高所恐怖症だったって?今はダイジョブそうだな。
濁沢大嶺を8時半に出て、檜尾岳頂上10時21分。CT100分のところを、111分。いよいよ遅れだしたか。まあ、それでも予定の11時より30分以上早いやないか。ホントを言うと あまり遅れてるようなら ここから引き返してまたロープウエーで降りることも考えてたくらいだけど、これならいけるな。
標高2728m。
「高さで日本で85番目だって・・・」
オマエ調べてきたんか?それでも日本100名山に入ってないのは渋いだろ!
頂上直下、CT10分で避難小屋。左端の手ぬぐいアタマがいろいろアドバイスをしてくれた山男。他の人たちは建設工事の人たち、ヘリコプターで来たんだろうか?資材だってヘリでなきゃ運べなさそうだし。
大分前に着いたらしい山男に、”この下の水場は細いって書いてあったけど、水、出てますかね~”
「あそこは枯れたことがありません、一年中出てますよ。それからこの先もたくさん急なところがありますから 慎重に安全に。それとサイゴの急な階段を飛び降りてバスに轢かれないように」 サイゴは冗談で送り出してもらって・・・
この看板、上向いてるやないか、ダイジョブか~?
ツマトリソウ。
避難小屋からちょっと下った先を左に入れば水場。
冷たい水が十分に出ていて、ゴクゴク飲めばウメ~~~。
空のペットボトルも全部満タンにして、これで水のシンパイはないだろ。
シェルパは流れの底の砂を掘ってキラキラするのを発見。「ホラ砂金だよ!」
今日のところはカンベンしてよ、先を急がなきゃ最終便に間に合わね~ぞ。
水場から戻り 避難小屋からCT15分のところに檜尾小岳。
見ろ、あそこからず~~っと歩いてきたんだぞ。
アンタ、暑くない?長袖脱いだら?
「虫がくるからイヤだ」
今時だな。
来たほうを見上げると避難小屋が小さく見える。もうこんなに降りてきたの?
上から見る景色と下から見上げるんじゃ大違いだな。
下にどこかの街並みが見える。地図で確認すると宮田村か?
ヤッホーって言ってみな。
「ヤッホー」
声が小せぇな 田中陽希って知ってる?
「ダレ~~~ぇ?」
木が増えてきただろ。山は森林限界っていってな、いろんな自然環境や気象条件でこのあたりじゃ2000mあたりまでしか大きな木は育たないんだぜ。
標高2550m?まだ標高差200mしか降りてないんかよ!
次のポイント、シャクナゲのピークまでCT60分。
タカネゲンナイフウロ
ニッコウキスゲ?こんなところでも咲くの?
”次はシャクナゲのアタマか・・・”
「シャクナゲのピークね」
かなり足に来ていて わき目もふらず目の前の道ばかり見つめて下っていたら
うしろから「おじちゃん、花!」
百合だ!気づかずに通りすぎるところだった。
あんた、どこも痛くない?
「足にマメができたみたい」どこに?「右足の親指」痛むか?「まあダイジョウブ」
バンドエイド持ってるからシャクナゲのアタマに着いたら貼れよ。
「ピークね」ウルセ
下る一方だと思ったが ピークというくらいだから登り返しもあり、ちょっとした段差をエイッと左足を上げたら太ももの内側の筋肉がピッと攣ってヤバッ。まだ相当残ってるだろ、こんなところで攣ったらバスに間に合わねぇぞ。慎重に歩いてシャクナゲのピーク着。CT60分のところを4分遅れでたどり着き、速攻ズボンを脱ぎ太ももにバンテリンをべたべた刷り込んだ。
シャクナゲのピークの名の通りにシャクナゲもまだ咲き残っていて、さあ次の赤沢の頭までCT80分。
そのあと100分でゴールだっ!
スマホを見てたシェルパが「明日の学習会 中止になった、台風が来てるからって」
火曜日の朝9時に始まる学習会に間に合うよう帰ってきてとメイに言われてたが、山は途中で引き返すかもわからないし 今夜の宿は取ってなかったけど、明日の塾が始まる夜6時までに帰りゃいいのか。そりゃラクになったな。じゃいっそ飯田まで行って墓参りして帰るか。オレもちょっと寄りたいところがあるし。
大分降りてきた感じがするな~。
「水の音が聞こえない?」
シェルパが言うんで耳を澄ましたが、風だよ!
蘭の一種か?
そのうちゆっくり調べよう。
ナデシコのような花びらだけど・・・
もうかなり足にきていて、アッ、ウッ、どっこいしょを連発、時々うしろから「ファイト~」の声。
最初に山に一緒に登った小学4年の時だってオレより元気だったのに、あれからこちらは衰える一方、シェルパは伸び盛り、差は開く一方だな。
来た!赤沢のアタマ。
「カシラね」
CT80分のところを90分かかっている。
赤沢っていうくらいだから、近くに沢があるんじゃないか?と耳を澄ますも風の音しか聞こえない。
標識もリッパに整備されてる道だがダレにも遭わず・・・
大きな木だ。道に迷ったらこういうのに抱きつけってよ。
赤沢のアタマまでは30分に一回休憩を取ってきたが サイゴの100分は20分ごとに休ませてくれ。5回休憩を取ればゴールだ。
休むたびにリュックを下ろし、ズボンを下ろしてバンテリンを刷り込み、たくさんある水を遠慮なく呑んで・・・
登山口まであと1.6Km。
水の音が聞こえるよ!
沢だ。顔、洗おう!
バスに乗るのに汚ねぇ顔じゃまずいだろ。
いや~もうすぐ着くと思うと、この辛かったロングワインディングロードも名残惜しい感じがするな~。
バス道路が見えた!
そうして、CT100分のところを ヨレヨレの足取りで120分かかって到着~。
ここに降り立つのが夢だったんだ。アンタのお陰だよ。
メイの子供とグータッチし、15時36分、予想以上のデキで降りてこれたな~。
この看板だよ!
そこへタイミングよくバスが下りてきて手を上げるも、運転手さんが窓から顔を出して「すぐ下にバス停がありますから そこで待っててください」と言って 行ってしまった。
なんだよ、誰かのブログを読んだら手を上げると乗せてくれたって書いてあったけどなァ。
「臨時便って出てたから 満員だったんじゃない?」
舗装道路を登山口から手前に350m下った檜尾橋バス停までトボトボ歩けば、休む間もなく また良いタイミングでバスが来て、
中は登山のリュックを抱えた人たちで満席、しょうがねえ立って行くかと前を見ると補助席が2つ空いてる。
もしかすると さっきの運転手が無線で連絡しれくれたのか?
ここから乗り込むと、奇異な目で見られて どこに行ったのかと聞かれると書いてあったのもあったが、みんな目を閉じて山登りでお疲れモード。ナンデイ
バスを降り、近くのこまくさの湯で汗を流し、飯田のホテルを予約して
駒ヶ根名物 ソースカツ丼。シェルパにはこのほかに オレの3切れも食べてもらった。
オレなんかまだ心臓の動悸がおさまってないのに、よくそんなに食べられるな~。
そうして、再び中央道に乗って南下して飯田。
懐かしい飯田線の単線の踏み切りの向こうに暮れなずむ南アルプスの山なみが見えて ホテルに入ればオリンピックも見ずにバタンキューとベッドに倒れこんだのでありました。
~to be continued~