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昨日の新聞の片隅に、「荒行 千日回峰2回達成の酒井大阿闍梨死去」のニュースが載っていた。
 
そんなに修行を積んでも人は死ぬんだなという思いとともに・・・
 
 
 
 
京都の下宿の窓を開けると、真正面に比叡山が見えた。
 
春には山桜、秋の紅葉、比叡おろしが吹き細かい雪が舞うようになると
 
墨絵のような景色をみせてくれた比叡山。



その山に歩いても登れると聞いた丁度そのころ、
 
東京から”モリオ”が遊びにきて、行くか?と聞くと二つ返事でヨシ、登ろう!
 
 
 
下宿の二つ前の叡電 修学院駅を下り、教わった通りの赤山禅院ワキの道を行くと
 
すぐに細い、思ったより急で険しい山道になり しばらく行くとギャーという声。
 
姿は見えないがサルか? あいつらのテリトリーに入って、まさか襲ってこないだろうなとヒヤヒヤしながら
 
まったくひと気のない、水が流れてえぐれた道をハァハァ登っていると「ちょっと待ってくれ」
 
 
 
 
振り返れば、モリオが青い顔をして 「気持ちが悪い」 道の脇にゲロ吐いてへたり込んだ。
 
しょうがねえな~、急に登ったからか?
 
しかし、吐いたのがよかったか すぐに回復してまた登りはじめ、
 
 
 
途中市内が見渡せるところもあったりしたが、ほとんど獣道に近いような
 
森の中の狭い道をあがっていると、タッタッタッとなにやら足音がして
 
突然 白装束に杖、アタマにはへんなものをかぶった人が駆け下りてきた。
 
 
 
その迫力に思わず道をあけると、軽く会釈をして風のように去って行った。
 
うしろ姿の脚絆にわらじ姿が目に焼きついて
 
「なんだ、今の?」
 
「山伏か?」 さすが比叡山、いろんなのがいるな~と感心して・・・
 
 
 
モリオは、寺社を巡ることもなく京都を去り 三週間ぐらいしたら
 
下宿のおばさんが「電話ですよ」と呼びにきた。
 
 
 
出ると、高校時代のサッカー部の奴で「モリオが家出して一ヶ月ぐらい行方不明、
 
そっちに行ってないか?」 というもの。
 
家庭内のことで悩みがあったと言っていたが、もうとっくに帰ったぞ。
 
それでか、あんまり山っていうタイプじゃなかったのにすぐ登ろうって言って。
 
結局また電話があって、同じ高校から長崎の造船大に行ってる奴のところまで行ってたらしかった。
 
 
 
 
10年くらい前に、サッカー部の顧問だった先生が、県のナンチャラに栄転するお祝いの会があり
 
そこにサッカー部でもないモリオも顔をだしていて、アレ以来の再会をした。
 
 
 
「オマエがゲロ吐いて登った比叡山で会ったの、千日回峰行という修行をしてたエライ坊さんだったんだぞ」
 
そういうと、奴もその後知ったらしく そうそう。 「だけど調べたら年代が合わないんだよな」
 
酒井師が一回目の千日回峰を始めた年より、6,7年も前にオレたちは登ったはずだぜ。
 
 
 
 
そうなの?まァその前にも修行をしてた奴がいて、オマエのゲロ踏んで挫折したんだろ。
 
しかしお前も得度して、リッパになったねえ。
 
モリオはアタマをツルンとなでながら、静かに酒を飲んでいた。
 
 
 
というようなことを、雨に濡れたヤブランをみながらシミジミ思い出してる秋。
 
 
 
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