許されざる者 | 本を片手に街に出よう

許されざる者

タイトル: 許されざる者

 

 オラオラ!悪い奴らはまとめて鉛玉を食らわすぜ!

 ダーティ・ハリーの西部劇版…なんてノリじゃありません。

 

 全くもって善人がいない。しかし完全な悪人もいない。善悪がはっきりしていない、そういう意味では西部劇だが今ここにある現実世界をも表現した映画。本人曰く最後の西部劇、というのは良くも悪くも納得。

 従来の西部劇がもっていた、どこか非現実的な水戸黄門的ノー天気さを、完膚なきまでに叩き壊す。

 ハリウッド的エンターテイメントや、日本のドラマなどに慣れている人は、はっきり言って「暗い!つまらない!」と言うだろうな…

 

 それなりに思い入れがあるので、長文かつネタバレご容赦を。

 

 大自然の中で、年老いつつも何とか日々を暮らしている男、かつては列車強盗、女子供も容赦なく撃ち殺した極悪ガンマン、ウィリアム・マニー。

 そんな老ガンマンに仕事の話が。ごろつきに顔を傷つけられた娼婦の復讐のために娼婦仲間が賞金を賭けたのだ。それをモノにしようと若いガンマン、キッドがやってくる。

 自分は堅気になった。渋るマニーだが、今の暮らしに限界も近い。ふっきれずに、久しぶりに缶を的に銃を撃つ。しかし歳月が銃の腕を著しく鈍らせている…それでも、現状を打破するためにキッドを追って旅立っていく…

 

 雄大なアメリカの自然が如何なく描かれ、イーストウッドの佇まいが良く映えてます。渋い。渋すぎるよイーストウッド。正に彼による彼のための、彼を観るための映画。

 

 イーストウッドだけでなく他の人達も皆演技が良いが、枯れつつも昔の狂気を眼光に携える、表情の演技はやはりイーストウッド。

 

 ごろつき(牧童だけど)の一人を狙撃する場面で、仲間(モーガン・フリーマン=最新作ミリオンダラー・ベイビーでも共演している、いぶし銀のおっさん)から「自分は撃てない」と表情で訴えられ(ここの演技がまたいいんだ)、渋々代わるマニー。

 「ライフルは苦手なんだが…」苦手な道具を使わざるを得ない面倒くささと、また手を血に染めてしまう後ろめたさ、冷酷と嫌悪感が入り混じった、複雑な表情。

 また、撃ってしまった後の、後悔と苛立ちの表情と、意味も無く土をむしる仕草。
 「おい!水くらい飲ませてやれ!もう撃たない!」撃っといてそりゃないだろ、という理不尽な台詞だが、その前までの葛藤を観ているだけに、ぐっと感情移入してしまう。


 二人目を殺る時の派手な銃撃戦の後、賞金を受け取るために町外れで待つ。
 「昔もあんなだったのか?怒号と銃弾が飛び交う…ちょっとだけ怖かった」キッドは人殺しは初めてだった。
 「覚えてねえ…大抵酔ってたからな」悲しいまでに淡々と答えるマニー。
 人を殺してしまった罪悪感に苛まれ、「奴らは自業自得だ」と自分に言い聞かせるようにうそぶくキッドに、マニーが言う。「俺達も同類だ」

 

 賞金を持ってきた娼婦から、仲間が捕まって拷問された後に酷い殺され方をした事を知り、冷静に話を聞きつつも、10年間断っていた、悪行の根源である酒を口につける。 「キッド、お前の銃を貸せ」
 静かな怒りと殺意がみなぎるマニーに、ビビりまくるキッド。「その銃はお前やる。オレはもう二度と殺さない。オレはあんたとは違う。金も全部やる。あんたに殺されたくねえ…」
 「お前は殺さない。たった一人の友達だからな」

 

 単身、町に向かうマニー。
 豪雨と馬の蹄の音だけが響き、馬の脚と土砂降りの地面が映る絵に、飲み干した酒ビンが捨てられる。
 すごい…これから始まる惨劇の予感を、これ以上ないくらいの演出で魅せる。

 

 町の酒場では、拷問で聞き出したマニーの住みかに狩りに出かける算段で、保安官を囲んで盛り上がっていた。
 「一緒に来る奴はオレが一杯おごるぞ!」

 ふと気づくと酒場の入り口には、豪雨に濡れてヨレヨレになりながらも、スペンサー銃を掲げて不気味に立ち尽くすマニーの姿が。

 「ウィリアム・マニーか?女子供を殺した?」やつは極悪人だという先入観たっぷりに訊ねる保安官。

 「そうだ。女子供も、動くものならお構いなしに殺した。今夜はお前を殺す」

 

 こっから先はちょっとあり得ないくらい出来すぎの展開。
 銃撃戦の後に淡々とグラスをあおるシーン、スペンサー銃の装填シーン、はキワだってカッコいい。

 

 「娼婦を人間らしく扱え。さも無いと皆殺しにするぞ」去り際に凄むマニーのバックには、星条旗が。

 

 誰が許されざるものなのか?何が善で何が悪なのか?人を殺すという行為の愚かさに善も悪もないという事を訴える内容であるだけに、最後の星条旗は気になる。

 

 果たしてブッシュさんはこの映画、好きか嫌いか?