【小説】インディヴィジュアル・プロジェクション

著者: 阿部 和重
タイトル: インディヴィジュアル・プロジェクション
芥川賞受賞記念!で平積みされていたので思わず買ってしまった。
常盤響さんの表紙のアヤシさとタイトルの語感で買ったことも否めない。
そうだった…あのころの渋谷ときたら、ほんとおっかない街だった。
主人公の日記形式で物語は進む。最初は渋谷の日常がファッションと暴力のエッセンスをふりかけられながら語られる退屈な展開なのだが、途中から主人公周辺に微妙なズレが生じ始め、読み進める速度も上がっていく。
↓ネタばれなので保護色にしました
結局のところ、全ては主人公の妄想だったのだろうか?
または「塾」の訓練シミュレーションにすぎなかったのか?
イノウエは主人公自身であったか?カヤマもそうなのか?
途中の微妙なズレが生じ始めたところから、タイトルの意味が判ってくる。確かに「自己投影」だね。
#自己投影で思い出しただけで本書とは全く関係ないが、精神医学の世界で「ドッペルゲンガーDoppelgänger」という自分の像が見える症状?がある。
#それで思い出したのがアーコンというチェスのようなゲーム。ドッペルゲンガーが駒で出てくる←まわりくどくてすみません…
#当時はやたらハマっていた。思い出すと、無性にやりたい。Windows版とか出てないのかな…
日記形式にしたのも、仕掛けの一つなんだ、という事にも途中で気づく。
1人称なので、どこまでが事実でどこからが妄想なのか、分からん…
ラストに向かって全ての謎が解明されていくようでいて、逆に全てがまた混ざり合って日常に回帰していく。この無限ループ感がもやもやしていて、その点は好みではある。
違和感は、スパイってのとプルトニウムってとこがね…ちょっと漫画チック。もう少し普通っぽい要素に変えたほうが良かったのでは…
#しかし参考文献がすごいね…KGB、CIA、公安ときてモサド、KCIAまであるし。この作品にかけるエッセンスくらいならそんなに沢山参考にしなくても。
やたらと訓練の賜物である冷静沈着さを引き合いに出す割にすぐ暴力に走ったり錯乱したりするところも稚拙な判断力の大人子供という感がある。
そうか、渋谷だから、こんなんで、いいのか。
BGM->ICE"ICE TRACKS Vol.1"1998