スーツ46日目②
女体山を揉み歩き、遂に第88番「大窪寺」に到着。最後の寺なので、これまで以上に声を張り上げてお経をあげた。
ひとりのスーツが無職となり、四国遍路という名のポンコツ再生工場に来てからおよそ一ヶ月半。
スーツは、四国を歩いているときによくかけられた、ある言葉を思い出していた。
「お兄ちゃん、まだ若いのにえらいねぇ」
褒められて悪い気はしない。しかしスーツは思う。ポンコツとして四国にやってきた歩き遍路に「えらい」人間なんてひとつもいない。
現実の世界で戦っている人間のほうが、よっぽど「えらい(しんどい)」し、「えらい(立派)」のだ。将来のために歯を食いしばって必死に働くのに精一杯。彼らに四国霊場をまわる暇なんてないのだ。
しかしスーツときたら、どうだろう。ほんの少し、疲れた、しんどい、怒られた、気に入らない…からと言って、会社を飛び出し、現実から逃げて四国に来てしまった…。
でも四国に来て遍路やってみるもんだなぁ~。
お大師さんと一緒に行動しているせいか、四国にいると毎日が修行。誰にでも挨拶する、感謝を忘れない、早寝早起きする、歯磨きして寝る、胸を張って歩く、元気な文字を書く、雨に負けない、他の遍路さんの名前を覚える…。基本的なことから応用的なことまで、修行の地・四国にいれば、どんな修行でも受け止められる。
その時、スーツが思ったのは、現実の世界で頑張る真の意味での「えらい」人たちは、四国に修行しにこなくても、日常的に修行しているってことだ。
スーツは四国で修行することができても、現実の世界では修行できていなかった。1日1日をこんなに丁寧に生きていなかった。だから、いざという時に苦しんだ。
とりあえずタバコはやめられたみたいだから、これからはすべて修行だと思うことを誓い、下界に戻ろう。
眠いし…。
