人言の繁き時には我妹子し衣にありせば下に着ましを 【万葉集巻十二 2852】

訳)人の噂の こんなにも高い時は あの娘がもし 衣であったら じかに着ように

いつも楽しみに通っている、万葉集の講座、今朝も行ってきました。

巻十二の初めには、柿本人麻呂歌集からの歌が、二十三首載っています。

この歌も、そのうちの一つ。

当時、恋人同士が衣を交わす習慣があったそうで、前にも書いた、赤い下着を着てたら、透けて見えそうだ、など、

それを思わせる歌が、けっこうあるようですが、さすが人麻呂、下着どころか、我妹子そのものを、着たい、と。

人麻呂歌集に、こういう歌があるからか、ほかにも、このような、相手が衣であったら身につけたい、という歌は、

男女ともあるようです。

巻十一と十二は、恋の歌の巻。

まずは、お手本のように、柿本人麻呂の歌が、いくつか載って、あとは、奈良朝の人たちの歌が続きます。

歌の勉強をしながら、書いているような感じもあり、

古い歌の、いいところを組み合わせたり、引用したりして、パズルみたいに歌を作ったりもします。

ですから、刺激的な人麻呂の歌も、多くの人が、真似て作ったでしょう。

そのうちに、その刺激的だったものが、だんだん、よくあるフレーズ、になったかもしれません。

「あの娘が衣なら着ていたい」っていうのが、ある種のラブソングの定番フレーズになる、というような、

人麻呂のおかげで、日本の歌の根の部分には、そういう感覚が一般化した歴史があるんでしょう。

先の「えとうた」での僕の新曲「手つきと唇」、なかなか衝撃的だったとの感想もいただいていますが、

いえば、その歴史の先にある、当然の歌ということになるかもしれませんね。

さ、人麻呂について、いろいろ調べたりもして、すっかり夕方。

今日も素敵な夜を。

美しい明日へ心をこめて歌っています。

洋司