コメントありがとうございます。
けろりんさん、The東南西北の札幌の道新ホールでのコンサートのチケット、大事にとっておいてくださったんですね。アルバム「好奇心」のツアーですね。去年、久々の札幌、嬉しかったです。また、行きたいな、と思いますよ。
そんな久保田洋司、昨日の万葉集の講座で、習った歌で、問答の面白かったものを、一つ紹介します。
巻十一
2515
しきたへの 枕動きて 夜も寝じ 思ふ人には 後も逢ふものそ
2516
しきたへの 枕は人に 言問(ことと)へや その枕には 苔生(こけむ)しにけり
訳)
2515
(しきたへの) 枕が動いて 夜もろくに寝ていないだろうね でも心から思う人には あとで逢えるものだよ
2516
(しきたへの) 枕が人に物を言うものですか その枕には苔が生えていますよ
この問答は、
2515 ←女から男へ
2516 ←男から女へ
と考えると、上のような、読み方になっていまして、
女が、なかなか逢いに来ない男へ、軽く愚痴ったような歌に、答えた男が、話をはぐらかしている感じにとれます。
2515 ←男から女へ
2516 ←女から男へ
と考える訳もあって、相手の心の働きで枕が動く、という説から「逢わなくても、心が通い合っている」と、通わない男が口実を歌ってるのに答えて、あなたが来ないから、枕というのなら、こっちの枕には、苔が生えた、と女が愚痴る感じにとれます。
どっちにしても、この二つの歌は、ぴったりとくっついていて、そこはかとなく、周りで聞く人たちの笑いを誘うものになっています。
こういう歌は、実際に、男女の間でかわされたものではなくて、宴の席で、その男女になりきった者が、楽しく盛り上げるために作ったもの、のようです。
この問答は、柿本人麻呂歌集から、万葉集に採用されています。
人麻呂の歌には、助詞などを省略して書いた略体歌が多くあって、このあたりの歌もそうなんです。
原文は、どうなっているかというと、2515は、
布細布枕動夜不寐思人後相物
↑これを、読むなんて、しんどいですね。まず、たよりになるのは、和歌が、57577でくぎれること。
一文字一音の歌なら、5文字、7文字~とくぎっていけば、音としては、読めてしまうわけですが、万葉仮名は、それだけではない。長くなるので、詳しいことは書きませんが、ここでは、
布細布 ←これを、しきたへの と読みます。これは、枕にかかる枕詞。
枕動 ←これを、枕動きて と読みます。
夜不寐 ←これを、夜も寝じ と読みます。本によっては、夜も寝ず と読むものもあります。
「じ」と「ず」のちがいは、「じ」が、打ち消し推量、つまり、「~ないのだろう」、「ず」は打ち消し、つまり「~ない」
寝ないだろう、と、寝ない、微妙に違いますが、原文を読むだけでは、どっちが正しいのか、わかりませんね。
思人 ←これを、思ふ人には、と読みます。
後相物 ←これを、後も逢ふものそ と読みます。本によっては、後に逢はむもの と。
これも、原文だけでは、どう読むのが正しいかは、わかりません。
前者は、あとで逢えるものだよ と訳され、後者は、後で逢えることだ、と訳されてます。
57577なのに、8音ですね。
「逢ふ」「逢はん」は、「あ」からはじまります。いわゆる母音から始まる言葉がある場合は、8文字になっても、いいようです。
いろいろな、研究がされていて、男女の歌の順番も、説がわかれるところです。
枕が動く、とは、文字通り、動く、と訳すものもありますが、「動」を、「とよむ」と読んで、「大声をあげて騒ぐ」と訳すものもあります。
だから、
枕が動いて、夜も寝てないだろうね~と訳すこともできれば、
枕が騒ぐから、夜寝られない~と訳すこともできる。
それにしても、枕が、動いたり、騒いだりって、面白いです。
こんな歌もあるんです。
2503
夕されば 床の辺去らぬ 黄楊枕(つげまくら) なにしか汝(なれ)の 主待ち難き
訳)夕方になると 枕辺りを離れない 黄楊枕よ どうしてお前は 主人を待ちあぐんでいるのか
なんと、枕に話しかけてます。夕方になると枕元に来る犬にでも話しかけてるみたいですね。
枕を相手に、男を待つ女性が、気持ちを歌ってる、これも、遠まわしに軽く愚痴ってると思っても面白いでしょうか。
自分の気持ちを、枕に、あてはめて、それを、ちょっと引いて見てる、という感じでしょうか。
2515にもどりますと、枕が、動いたり騒いだりして、夜眠れない、面白いですね。
2503を踏まえれば、その枕に向かって「思う人には、あとで会えるよ」と。
で、動いてるのか、騒いでるのか、どっちかな?
2516の、枕が人にものを言うものですか、というところを見れば、動いてるというより、騒いでる、と思ってもいいですね。
あるいは、女の人が、枕は、動くからといっても、しゃべりませんよ。つまり人(あなた)ではありませんよ、みたいな、とりかたも、できるかもしれません。
そして、苔。
男の立場なら、苔が生えるほど長い時間が経てば、枕も言葉をしゃべるようになる、というなにか、長生きした亀が言葉をしゃべる、みたいな、へんなことを言って、はぐらかしてるような感じ。
女の立場なら、枕が言葉を話しますか? こちらの枕は長い時間が経って、苔が生えてます、と。
だいぶ、長くなってしまいました。
まとめ切れなくて、わかりにくいかと思いますが、この問答だけでも、こんなに、長々書くことがあるんです。ほかにも、面白いものいっぱいです。
なにが正しいか、ということもいいけれど、こうして、いろいろ考えてみるのも、とっても楽しいです。
昨日は、朝の万葉集の講座のあと、午後、打ち合わせとリハーサル。
久々に、「鼓動は三拍子」ツアーの曲を、郷田さんとあわせまして、ツアーを思い出しながらも、新たな気持ちで、楽しく演奏できました。
夜は、久々の、音楽仲間の会合。緊張していましたが、だいぶ打ち解けることができて、良かったです。
万葉集のことを、まとめようとして、だいぶおそくなってしまいました。
このあとも素敵な夜を。
美しい明日へ心をこめて歌っています。
洋司