先ほど、上海から帰ってきたところである。

まだ、着替えてもいない。

電車を降りて、歩いていると、
丸い月が見えた。

上海でも、おとといの夜、丸い月を見た。

阿倍仲麻呂の歌に、

天の原 ふりさけ見れば 春日なる
三笠の山に 出(い)でし月かも

安倍仲麿(7番) 『古今集』羇旅・406

がある。

空を降り仰ぎ、遠くを見てみると東の空から月が出てきた。
あれは昔見た奈良の三笠山から出ていた同じ月なのだなぁ。

最後の「かも」は、疑問を含む詠嘆、とも。
同じ月なのかなぁ、みたいな感じもある。

19歳で遣唐使船で留学生として、唐に渡った。
やっと帰国の許可が出たのが55歳。

その時の惜別の宴で読んだ歌だそう。

でも、結局船は流され、日本には戻れずベトナムに漂着。
やっとの思いで唐に帰り着き、そのまま72歳でこの世を去る。

仲麻呂の話が長くなったが、
上海で見たあの月と、
帰ってきて、先ほど駅のそばでみた、あの月は、
同じなんだなぁ、と思ったことであった。

上海では、オーディションを通じて、
本当に、良い経験をさせていただいた。

洋司