近くで、蝉が鳴いているが、
これ、聞いていると、ずっと鳴いているわけではないようである。

しーんとしている時間のほうが、長い。

しばらくすると、思い出したように、鳴きだす。

蝉が鳴いている、と書き出せるが、
蝉がしーんとしている、とは、なかなか書き出せない。

万葉集の、鹿の歌で、

夕されば 小倉の山に 鳴く鹿は
 今夜は鳴かず い寝にけらしも

というのがある。
僕も好きな歌なので、何回かここに書いたことがあると思う。

夕方、いつも鳴いている鹿が、今夜は鳴かない。
寝たらしい。

鹿が鳴かないのは、共寝の相手が見つかったから、
というふうにも読めるのであるが、

蝉が鳴かないのは。

さっきから、大声で鳴いていた蝉が、
今は、鳴いていない、
寝たらしい。

洋司