乳搾りの娘を、誘う男。
森の中、池の前の、木の下。
牛やロバもいる。

そんな絵を見たのである。

200年ぐらい前の絵か、
もっと前だったかもしれない。

今の世の中と比べると、
なんにもない。
なんにもなくて、僕など、
心細く、悲しくなってしまいそうであったが、

森があり、空があり、
池があり、牛やロバがいて、
乳搾りの娘がいて、
恋する男がいて、
思えば、
そこには、すべてがあるではないか。

二人が、そのあとどうなったのか、
知るよしもないが、
もしかしたら、二人の子孫のだれかが、
俺は町に出る、などといって、
パリあたりで、絵を描いたり、恋をしたりし、
もっと遠い子孫が、
流れ流れて、東の国で、誰かと出逢い、
また、更に子孫が、僕らの知人、
などということも、あるのかもしれない。

暗い美術館を出た後の、
現実の、風吹く街の、色と存在感。

本日も詞に打ち込んでいるところである。

洋司