ずいぶん前に、唇は粘膜だから、皮膚とは違う刺激があり、それは脳に良いのだ、というようなことが書かれた本を読み、早速、その歌を作ったりしたものである。思考の友といわれるタバコの、あの深く吸い込み、ゆっくり吐き出す呼吸による集中や、唇に吸い口が触れることによる脳への刺激、太宰治やジョン・レノンのタバコを吸っている写真、あれこれ考え合わせてみれば、タバコは吸えなくても、タバコを吸っている振りをすれば良いのでは、とそういう仕種の研究をしたこともある。それで、なんでもない時に、唇を軽く噛んでいたりするようなことが、癖になっていた。ジョンやボブ・ディランやトム・ヨークや、特に若い白人ミュージシャンのインタビュー映像など見ていると、よく唇を噛んだり、もぞもぞしていたりする。唇の脳への影響を研究している場面ではなかろうけれど、それでも、そういう癖というのは、時と場合によっては、お行儀が悪く見えなくもない。と僕は、そういう研究は、やめようと思ったのであった。
洋司
洋司