子供の頃に、二段ベッドの上の段で寝ていて、真夜中に寝ぼけて、落ちたことがある。前にもここに書いたことがあると思うので、ここを読んでくださっている方々には、有名な話というか、聞き飽きた話かもしれない。人はたまに、二段ベッドの上から落ちた話を、書いてみたくなるもののようである。その時は、本人は落ちたことにも気づかず、怪我など一つもなく、寝ぼけたまま、また階段を上って寝たのである。真夜中のドスンという音にびっくりしてやってきた父の様子だけは、少し覚えている。暗闇の柵を乗り越え、宙を泳ぐ刹那の愉楽を、記憶していないのが、少々残念である。

洋司