大きい蚊みたいな、もう、蚊にそっくりな、お前は蚊だろう、というような小さな虫が、小さな羽音をたてて、この部屋を、飛び回っていたのである。早朝、3時から起き出して、さて仕事に取り掛かろう、という時に、しばし、その昆虫を追って、部屋中を、何回も左回りに、回ったところである。虫が迷い込む季節になったのである。その虫、捕まえて、外に放してやろうと、思っていたのであるが、人間には到達できぬ空中を飛び回り、ジュリーやレディオヘッドのポスターの黒いところをねらって、とまったりなどする。だいたい、放してやろう、などという考えが、驕っているではないか。やがて、こんなことをしていても、という、名案が浮かぶのである。こちらは仕事に取り掛かり、昆虫は、壁で眠る。なにもない静かな時間が過ぎたのであった。

洋司