知り合いのミュージシャンのブログなどを拝見すれば、歩道橋の上で鍵盤のフレーズがひらめいた、とか、船酔いの津軽海峡で甲板に出てみると、そこでメロディーがふってきた、とか、朝風呂に浸かっていたら、ふいに歌詞がひらめいて、忘れないようにずっと口ずさんだ、とか、様々に書いておられる。なにもないところから、唐突に、出てきはしないわけであるが、この方たちのものを読むと、いかにも、そのようなことが起こっているように思えて、面白いのである。羨ましいような気がする。同じ方々が、日常のふとしたことを書かれるのも、もちろん素敵であるけれど、個人的には、作品作りの話が、一番興味深い。なかなか、明かされないところであるけれど。だから、ここにも、そういうことを書いたらいいんじゃないか、と思い直したりもするのであるが、歩道橋やら津軽海峡やら風呂場などで、そうそうアイディアを得ることがない。ほぼ、机かその周辺で、うなっている日々である。ひねり出している。ふってわく、というようなことは、ない。実は、先の方々の、日記も、よく読めば、さんざん苦しんで、何日も何日も、さらに何日も悶々とした末に、たまたま、フレーズをひねり出した場所が、そこであっただけのようである。いかにも、突然ふってきたように書かれるのは、そこにもリリックがあるからであろう。こちらは、ずっと机の周辺にいるのであるから、本当は、突然、ふってわいているのかもしれないが、自分でひねり出した気になっているだけなのかもしれない。
洋司
洋司