「シカゴ・ブルース」っていう、1970年のドキュメンタリーがあって、当時NHKで「黒人の魂・ブルース」というタイトルで放送されたらしいんだけど、そういう映像を、今、僕らは見ることができる。非常にありがたいことである。当時の、シカゴの黒人が足を運ぶようなクラブでのブルースの演奏を見ることができる。マディ・ウォーターズの「フーチー・クーチー・マン」「シーズ・19イヤーズ・オールド」、ここでの演奏は、ずごい。マディは69年に交通事故で骨盤を損傷していて、その後復帰してからは、ステージのほとんどはスツールに腰掛けてのプレイである。ここでも腰掛けているが、インタビューも含めて、そのエネルギーに、強いインパクトを受ける。55歳というところか、ものすごい。若いバディ・ガイなども見られる。当然であるが、皆が売れているわけでもなく、無名のブルースマンらや、上手くはない人らも出てくる。マディは皆が自分みたいに歌えるわけじゃない、と言っているが、まったくだ。努力、才能、境遇、環境、意識、意思、相当のことや覚悟がないと、あぁはなれないのだろうと思う。80年のインタビューでは、ノルウェーの若い記者に、あなたは政治的か、と聞かれ、それは偏見、つまり人種差別も含めて、そう聞くのか、と一瞬気まずい雰囲気になりかけるのであるが、すぐに「どれだけ皆の役に役に立ったかということで人々の記憶に残りたい」と、スマートに切り抜ける。自分のためだというのなら、とっくに引退していても、なんの問題もなかっただろうと思う。ここにきて、僕なども、マディから大きな感動をもらっているところである。

洋司