三鷹で、太宰治を知る寿司屋の店長に、太宰はどんな声で話したのかと、質問したことがある。ちょっと考えてそのおじいさん、「小さい声ではなかったなぁ。ハッハッハ」。ずいぶん前に、このことは書いた気がするが、その時に店長さんの耳には太宰の声が聞こえていたのであろう。
夏目漱石の声を知る人が、「今の人で言うと、藤村俊二に似てる」と言った。そういわれて漱石の写真を見れば、どういうわけか藤村俊二に見えるものもある。
似ている、というのは、声だけでは、意外にそう感じないもので、しゃべり方や雰囲気によるところも大きいと思う。まったく関係のない人同士の、ふとした仕種や声や話し方などが、本人たちは知るわけもないのに、変に似ているのは、不思議なことである。電車に乗っていても、誰かに似ている感じの人が、その誰かと似たような仕種をすることがあり、他人をじろじろ見ては、兼好のようだが、非常に興味深く見る。
三島由紀夫なら、僕は、音声のCDも主演映画やインタビューの映像も持っている。「憂国」はすごいが、「からっ風野郎」も、ま、すごいが、台詞の「オメェみたいな女、はじめてだい」には、腰が抜けた。三島の口の感じやしゃべり方が、佐野元春みたいだと思うことがある。三島は、たぶんミリ単位でほぼ僕と同じ身長だ。学生時代の三島が太宰と会ったとき、行きの電車から、言おう言おうと考え考え、やっと「あなたのことは嫌いだ」と言った三島と、「きらいなら来ねぇだろ」と言った太宰のシーンは、いくつかの資料で、何度も読み、何度も想像するが、その場に、電球の役でもいいから、いたかったものだ。

洋司