ツクツクボウシが鳴いていた。そんな時期である。それにしても、上手に鳴くものだ。イントロみたいなのがあって、メロディーがはじまるとだんだんテンポアップで盛り上げて、ちょっと切なめのサビがきて、エンディングはフェルマータ。正調ツクツクボウシである。人がこれを習得しようとすれば、数年かかってもどうかと思われる繊細かつ大胆な謡いである。
駅の鉄の柱にとまって、一曲歌い終えたツクツクボウシ。誰に聞かせたというのか、その辺にいたのは、僕か通りすがりのカラスだけである。満足そうに静まり、二曲目に向けて息を整えている風であった。あれは、僕のために歌ってくれたのであろう。

洋司