「陰謀だ、企みだ、偏平足だ、変態だ」と言うのである。三三七拍子のリズムに乗って言う。小学生の頃に、やはり、女子から伝わって、ぼーっとした僕のようなものまで、言ったことのあるフレーズである。いったい女子は、どこからこういう言い回しを仕入れてくるのか、不思議であるが、この「陰謀だ~」について、僕は思っていたことがある。つまり「だ」についてである。僕の田舎、広島県では、「だ」とは言わない。「じゃ」である。だがら、言うとすれば、「陰謀じゃ、企みじゃ~」とならなくてはいけない。それが、「だ」となるところが、妙に都会風で、気取った、冷たいニュアンスを含みながら、それでも、田舎少年の憧憬をくすぐる何かがあったのである。テレビドラマの台詞を真似る、ませた小学生を見る恥ずかしさとともに。実際に、女子は、テレビかラジオかで聞いたものを、真似ていたのかもしれない。それにしても、こういうものは、だいたい、最後は「お前の母さん出ベソ」とくる。自分の母が出ベソかどうかを知るのは、ほとんどの場合、身内、それもごく限られた人だけであろう。ガセの可能性が高い。さらに言えば、別に自分の母が出ベソであろうとなかろうと、言われた本人には、さほどのダメージはないのではなかろうか。「命かけるかぁ~」とか、「いつどこで、何時何分何曜日、地球が何回回った時?」とか、いい加減なことを言うわけである。そして、近所の怖いおっさんかじいさんに、むちゃくちゃ怒られる。僕は、この怖い人になりたいと、前々から、思っているのである。

洋司