松本隆さんが、シューベルトやブラームスなどの子守歌に、新たに日本語歌詞をつけて、バリトン歌手の宮本益光さんが歌ったCD「おやすみ」が去年出ている。

モーツァルトの子守歌に、こんな詞が出てくる。
「女中部屋から『あぁ』とため息」。ため息のわけは内緒よ、と歌われるのであるが、松本さんによれば、もともと、そういう意味の詞がついていたのを、そのままいかしたということである。西洋には、こういうウィットがけっこうあるということである。つまり大人の秘め事を、子供に歌って聞かせるというような。クラッシックと思うから、意外な気がするかもしれないけれど、僕らにしても、子供のころに、知らずにサザンオールスターズの「Let's Take a Chance」やら「わすれじのレイド・バック」とか「ごめんねチャーリー」なんかを平気で聞いて、大声で真似て歌ったものである。たまたま、そんな僕の歌うのを聞いた、どこかのお兄さん(ミシンかなにかの営業に来ていた人かもしれない)が、「君、この歌の意味、わかるのかい?」と聞くので、僕は「うん、わかるよ」と答えたものである。そりゃ、表向きの字づらの意味は、わかったのであろうが、そこに真意があろうなど、思いもせずに。ウィットやら言葉の工夫などで味わい深く表現されるものには賛成である。

ところで、松本さん、「ファンの人から、『歌謡曲だけじゃないんですね、見直しました』と言われたよ」とやさしく苦笑された。

洋司