「大きなカブだ、うんとこしょ、どっこいしょ」というところを、その女子は、どうしても、「大きなカブだ、うんとこどっこいしょ」と読むのであった。小1の頃、国語の時間のことである。先生も「そうですか? ちがいますねぇ」などと、この女子に、自分で気づいてほしい様子である。普段は非常に明るくて楽しい女子も、このときばかりは、涙の「うんとこどっこいしょ」を繰り返すよりなかったのである。僕も、ぼんやり聞いていたもので、はじめは「うんとこどっこいしょ」であってるじゃないか、と思ったのである。最終的には、近くにいた子が、そっと教えたかどうかして、この女子も、ちょっぴり恥ずかし笑い、みたいなことになったのである。

ところで、実際に、大きなカブを抜こうとする場合、「うんとこしょ、どっこいしょ」というか「うんとこどっこいしょ」というか、僕は考えたのある。「うんとこしょ、どっこいしょ」は二拍で、「うんとこどっこいしょ」は一拍である。僕の母が、臼とか何か重いものを持ち上げる時、確かに「うんとこどっこいしょ」と、すばやく言うのである。これを鑑み、もしかしたら、僕も「うんとこどっこいしょ」派ではないかと思ったのである。二行目も同じ言葉をリフレーンする。そういう意味でも、フォークより、おそらくポップス、ロック向きである。
その後の学習発表会の劇で、僕はめでたく主役である。「大きなカブだ」のカブの役である。ま、6人ほどで輪になってやったのであるが。セリフは、おじいさん達に引っ張られる時に、う~ん、う~んなどといったかもしれない。

それにしても、あの話のいいところは、あんな大きいものを、皆でひっぱっても、なかなか抜けないのに、最後にネズミが引っ張ると、抜けるところである。そこに気がついたのは、ずいぶん後であった。客が乗りすぎて、舟が沈みかけた。大きい者が何人か降り、たまたま次にいた、やせた坊さんが降りたとき、舟は沈むのをやめた。皆は、舟が沈みかけたのは、坊さんのせいだと、いっせいに攻撃したとか。教室の右側のやや前よりの席に座っていて、この出来事の中では、まったく脇役の僕であったが、それでも、自分はつねに主役のつもりで、そこにいたもので、カブの役は、喜んでやったのであった。

洋司