三島由紀夫の『行動学入門』という本の二章、「おわりの美学」の中の「流行のおわり」に、こんな文がある。少々抜粋させていただく。

「数年前の夏、銀座にモンキー・ダンスを踊らせるエレキの店ができたとき、私はただもう面白くてたまらず、夢中で一週間通いづめに通ってしまったが、(中略)アゴをつき出し、両手をかわるがわる宙にふり上げて、へっぴり腰で蠅叩きをはじめるような、激烈なる陶酔状態へ瞬間にして陥る、その驚くべき人間の変化(後略)」

これは、小説ではなくて、エッセイであるから、三島は実際に、モンキー・ダンスを楽しんだようである。文の中では、踊るより、見ているほうがもっと面白かった、とあるので、踊ってみたのであろう。
『行動学入門』は雑誌の連載をまとめた本で、三島はあとがきで、「おわりの美学」は明らかに半分ふざけている、などと書いている。ただ、こういう軽い調子で語って、案外本音に達していることが多い、などとも書いているので、書くものによっては仮面の多い三島の、わりと素顔があって面白いものと思うのである。まさか、三島由紀夫が、へっぴり腰でモンキー・ダンスなど、と思うかもしれないが、そうとう楽しかったみたいである。
あとがきは昭和45年となっているから、割腹の年である。そこにいたると思われる思想の断片みたいなものも、読みようによっては読めると思う。だいたい「おわりの美学」と言っているじゃないか。「童貞のおわり」では、男にとっては生にぶつかってゆくのは、死へぶつかってゆくのと同じことだ、などと。
ま、モンキー・ダンスが、まさか、あんなものが、と思いながら、思いがけず楽しいものであったのは、はじめから、そうであったようである。

洋司