先日、伯母と古本の話になった。

「お父さんがいて、お金のある家の子は、かわいい本を、買ってもらえたけど、私らは、そうじゃなかったけぇねぇ。今ごろ、時々、古本屋さんで、娘時代に、友達から見せてもらったような本を見つけて、買うことがあるんよ。」
「結婚するまえに、主人が、村上浪六の一足飛、これは読んだほうがええ、と、浪という字を、なみと読むのか、ろうと読むのか、とにかくこういう字だ、と手で書いたので、よう覚えとるんよ。ただ、その本は友達に貸したっきり返ってこないとかで、結局、私は読めずじまい。昭和二十年ごろの本じゃ思うんじゃけど、古本屋さんに行くたびに、入ってますかと、きいてみるんじゃけどね、気長に探すつもり。」
 
伯母の「お父さん」は、僕の祖父であるが、戦争にいって死んだのである。
僕の父は、自分の父親の顔すら知らぬ。
僕なども、本当に、近所でいわゆる「おじいさん」をあまり見たことがなったのである。
伯母の「主人」は数年前に亡くなった。
「洋司、愛しとるぞ」の声が今も耳に残ると、前も書いたあの、楽しい伯父である。

村上浪六の「一足飛」。
古本調べなら、最近、ふらふらになるまでやったところである。だいぶ慣れた。
インターネットとはすごいものである。熊本の古本屋に眠っているそれを、見つけて、注文することができた。
楽しい伯父が、若い時にどんなものを読んで心動かしていたのか、非常に興味があるところであるが、まずは、本が到着したらすぐに、伯母に届けようと思っている。

松本隆さんのホームページ用の原稿、尾道のことを書こうと思って、帰ってきてから、取り組んでいたが、どうも時差ぼけみたいな感じで、ふらふらで、筆が重く、なんだか妙なお猿が、木の枝の皮をむいでいるような映像ばかりが目に浮かび、なかなかすすまなかったのを、やっと書き上げた。
16日(月)から、松本隆さんのホームページ内、コラム駅伝のコーナーに載せていただくのである。

洋司