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久しぶりのブログです。真冬真っ盛りです。
小学校の時、冬場になると体育はジャージ上下になります。体育は苦手でしたし、冬場は北風が吹いて寒いものの、ジャージを着ていると、守らてているという安心感があって、夏場ほどは苦痛ではなかったです。クラスに何人かは、半袖で頑張る子がいたものでした。
高学年になると、肌の露出が恥ずかしくなるのか、男女とも、半袖で頑張る子は徐々に少なくなっていきました。5年の頃には、女子では半袖体操服を押し通す子はゼロになってしまいました。
さらに6年になると、担任の先生が寛大な人で、12月からは全員ジャージ上下で、と御達しを出してくれたので、好きなジャージを着て、女子のジャージ姿を拝めることができました。
ところが、そんな中で、自分たちより二つ下の学年で、真冬なのに全員半袖体操服で押し通しているクラスがありました。そのクラスの担任は、体育が専門の、モロ体育会系の男性教員で、朝の全校生の運動の時間の後も運動場に残って、一人ひとり、大きな声でスピーチをさせたりしていました。
運動を終えて自分たちは帰るころも、まだ運動場に残っている下級生が気の毒に思えました。また、 冷たい中で半袖体操服で下級生は頑張っているのに、自分たちはジャージでぬくぬく過ごしているのが、悪いような気もしました。
下級生のクラスの担任は、厳しい先生と評判でした。あの先生も、全員ジャージ上下でいる僕たちを軟弱ものと思っているのかもしれません。 もし、自分たちの担任があの先生だと、ジャージを脱がされて半袖体操服にされて、あのようにされるのだろうと思うと、耐えられないですが、一方で、そのようにビシビシしごかれたいというMな欲求もありました。
でも、それはジャージで守られているからの願望だと思います。あの先生なら、ジャージなんで存在しない、とでもいうような態度で出られて、ジャージ好きの僕としては、それは地獄になったろうとも思いますね。
先日、小学生の子供のいる知人にそのことを話したら、今だったらそんな担任の先生はクレームがくるのでは、と言っていました。 今も、そのノリで教師をやっているかは知れませんが、当時は、体操服は半袖、という雰囲気は強くありましたね。
1976年ごろのスポーツ雑誌の広告です。
ジャージだけでなく、タンクトップに短パンスタイルの写真も入っていて好対照なのもいいです。
自分の好みにぴったりあう、オーソドックスなジャージのデザインの写真を探して、ようやくたどり着いたのがこれでした。ライン付き・全開オープン型のジャージオーソドックスになってきたのが、この時期のようです。ちょうど、学校の体育でジャージが一般的になったのも、この頃のようです。僕の好みのジャージが最も盛んだったのが、70年だ後半から80年代初頭にかけてでした。
⑭クーパーテスト
クーパーテストとは十二分間走ともいう。十二分間の間で走った距離をもとに、有酸素運動における最大酸素摂取量を測定するテストだ。結果は、非常に良い・良い・普通・悪い・非常に悪い、の5段階に分けられる。普通の体力テストでは、男子は1500メートル走、女子は1,000メートル走が行われるが、17~20歳の男子の普通が、2500~2699メートルになるので、最も強度の高い種目となる。ちょうど、勇人と恭子が着いた時は、前の参加者がスタート地点に並んでいるところだった。男子・女子、それぞれ4人いた。
「僕たちの出番まで、まだしばらくあるね。ウォーミング・アップに学校を一周していこうよ」
「そうね。最後の競技だから、わたしもベストな状態でのぞみたいし」
大浜学園は広いので、ジョギングにはちょうどよかった。走り終えてグラウンドに戻った時には身体は充分に体が暖まっていた。二人の出番までは、まだ少しある。
「勇人、ジャージ、今のうちに脱いでおかない?」
と恭子。
「どうして?」
「12分走るって、かなり長丁場だし、汗もかなりかきそうじゃない。それに、この会場、みんな半袖体操服よ。ジャージなのはわたしたちくらい見みたい」
恭子の言うとおりだった。大浜学園の生徒は、育美もそうだが女子は半袖体操服にブルマーだし、男子も白い体操服に短パンだった。ほかの学校も同じように、それぞれの体操服で参加している。季節は春だが、この競技場の中は違うような気もしてきた。
「確かに、この中でジャージだと、いかにも文化部、て感じがするかもね。恭子の言う通りかもな。向こうのベンチのところで着替えてこようか」
勇人と恭子は連れだって、一旦、集合場所から離れていった。
「選手は、スタートラインに整列してくださーい」
担当の先生のアナウンスがあり、育美はスタートラインに近づいていった。……この勝負、次もわたしの勝ちだろう。トップで駆け抜けてみせるわ…。育美の脳裏に、恭子の姿が思い浮かんだ。臙脂のジャージで耐力測定なんて、いかにも野暮ったいわね、まあ、文芸部なんだし、仕方ないけど…。
次に走る選手たちも集まってきた。あれ、そういえば、勇人と恭子はどこへ行ったのだろう。育美はジャージ姿を目で追った……。
あ、二人が並んで歩いてきている。……! いつの間にか着替えてきていたのだ。勇人は紺色の短パンに、同じ紺の縁取りの丸首の半袖体操服になっていた。背の高い勇人が短パンを履いていると、足がより長くたくましく感じられる。恭子のほうも、臙脂色の縁取りのはいった丸首の半袖体操服に、臙脂色のブルマーを履いていた。ジャージを着ていたので気づかなかったが、勇人と同じくらいの高さの恭子の足は細いが筋肉がしっかりとついている。引き締まった臙脂色のブルマーのラインを見て、育美はある程度、スポーツをしている体型だと分かった。勇人と恭子が歩いてきたずっと後ろのベンチに、紺色と臙脂のジャージが丁寧に畳んでおいてあるのが見えた。
男子が前列、女子が後列に並ぶ。育美の横に恭子が並ぶ。白い体操服の恭子が育美の横に並ぶ。育美の前には勇人が立っている。勇人はたくましい背中を少し曲げて、スタートの体制になった。育美の胸が高鳴る。
「スタートっ」
合図とともに一斉に走り出す。恭子が育美の先に出た。すぐに育美が追い越す。また恭子が追いつく。しばらくは、二人が前後していた。
5分目。ここにきて恭子の後を育美が追う形になってきた。しかし、二人の差は5メートルくらい。充分に追いつける距離だ。
7分。恭子の走るペースが落ちてきた。顔がつらそうな表情になっている。それに対して、育美のほうがスピードを速めてきた。間が狭まってくる。カーブにきた。そこで育美のほうが恭子を追い越した。そしてそのまま、一気に育美はスピードをあげた。だんだんと恭子のほうが遠のいていく。
10分。育美が前方を走る。しかし、育美の走るペースが一時より緩くなってきた。対して恭子のほうは単調に走り続けてだんだんと差が縮んできた。
「あと1分―」
声がかかる。育美のスピードはさらに緩んできた。あと少しなのだが、この最後の1分が長いのだ。育美は恭子が近づいてきているのが分かった。……恭子が通り過ぎた。育美の目の前に、恭子の背中が目に入った。
「あと30秒………終了―!」
やっと終わった。もういいのだ。育美は走るペースを落とした。記録係が記録用紙を渡してくれる。ハアハア息を継ぎながらゆっくりと歩調を緩めた。向こうには恭子が立っていた。スレンダーな体型に白色の半袖体操服に濃紺のブルマー姿の恭子が、堂々と立っている。育美は恭子に近づくと言った。
「2100。レベルは『良い』よ。そっちは?」
「2400メートル。『非常に良い』よ」
と恭子が答えた。
勇人が近づいてきた。
「見ながら走っていたけど、二人ともいい勝負だったよ。2対1で恭子の勝ち、でいいね」
「文化部のあなたに負けたのは悔しいけど、勝負は認めるわ。でも、今回、あなたとはいい勝負ができたと思うし、これからもいいライバルでいたいわ」
「わたしも同じ」
恭子と育美は、お互いににっこり笑って握手をして別れた。
「まあ、これだけ結果が出せれば、文芸部も大丈夫だろうね。さ、競技も終わったから、ジャージ、着ましょう」
恭子はそう言うと、足元のベンチに置いてあった臙脂のジャージを手に取った。
勇人もジャージに腕を通した。走る前まで着ていたジャージだが、脱いだ時よりも一層、爽やかな気持ちになっていた。ジャージの下履いている短パンがきりっと締め付けている感じがする。今は、ファスナーを首まで上げた恭子の臙脂ジャージ姿と、白い体操服に濃紺のブルマーで走っている姿が、どうしても勇人には結びつかなかった。
閉会式が終わり、会場を出るときには、恭子は、行きしと同じように、臙脂のジャージの上に、セー
ラー服の上着を着て、眼鏡をかけていた。それはいつもの文芸部の大人しい恭子を思わせるもので、育美と競争していた時のアスリートの表情は、ますます遠のいたような気がした。帰りの電車の中で、恭子は言った。
「わたしね、今日のこと、小説にしておこうと思うの。だって、こんな体験、めったにないもの」
⑫五十メートル走
勇人と恭子が短距離走のコーナーに着くと、育美はすでにスタート地点にいた。各コースには、スターティングブロックが並んでおり、育美は屈んで足をかけて、調整をしていた。
「体力測定の五十メートル走で、スタプロ置いてあるなんて、本格的ね」
恭子は見ながら言った。
男女五人ずつ、交互に走る。男子の勇人が先に走った。
「さすが勇人。一位ね」
走り終えて戻ると、育美が嬉しそうに勇人に向かって言った。
「さ、次は女子の番ね。恭子さん、行きましょう」
第一レーンに育美、第二レーンに恭子、その横にさらに三人、それぞれ違う学校の女子生徒が並んだ。一人は陸上競技用のランニングと短パン、ほかの二人は育美と同じ体操服だった。
「位置について――、用意――」
屈んでいた選手たちは一斉に腰を上げて、そこで止まる。濃紺のブルマーの育美の腰も、臙脂のジャージに覆われた恭子の腰も揃って、一瞬、止まった。
「スタートッ!」
一斉に五人が飛び出した。大浜学園の男子が、続いて勇人が先頭を走り、後を、恭子、育美、他校の女子の順で走りだした。そのままの順位で、五人はゴールまで走りついた。
育美にとっては最初から苦い結果だった。
「五十メートル走は、わたしの勝ちね」
終わってから言う恭子に、育美は言い返した。
「そ、そのとおりね。でも、勝負はまだ二つあるんだし、次は負けないわよ」
育美が強がりを言っているものの、本当は文芸部の知らない生徒に負けてしまったことに焦っていることは、勇人には明らかだった。
⑬ 立ち幅跳び
立ち幅跳びは砂場で行われる。砂場の前に白い線が引いてあり、その前に立つ。助走をつけずに、そこからできるだけ跳ぶ。二回跳んで、良いほうを記録としてとる。
育美のほうが最初に跳んだ。手を振り上げて育美の体は大きく上がり、砂場に着地した。
「一八〇センチ。まずまずね」
紺色のブルマーのヒップについた砂を払いのけながら、育美は満足そうに立った。2回目は、182センチとさらに好成績だった。
続いて恭子が跳んだが、こちらは一回目が一六七センチ、二回目は一六〇センチとさらに下がった。立ち幅跳びは育美の勝ちだ。
「どお、バレー部の実力は。次のクーパーテストでは、わたしのほうが強いことをもっと見せてあげるわ」
育美は上機嫌で恭子に言った。
「でも、次のクーパーテストで本当の勝負が決まるということね」
恭子は育美に向かって念を押すように言った。
外は春の暖かい日差しが照っている。グラウンドも、体育館と同様に、いや、それ以上にたくさんの選手がそれぞれの種目に臨んでいた。
「本当に大会に出た、って感じね…」
「四つとも、陸上競技の種目だものね」
と、恭子はレーンを入っている選手を眺めながら言った。勇人も、今までのものはすべてウォーミング・アップであって、これからが本当の競技な気さえした。
⑪ハンドボール投げ
トラックの内側に、白い線で直径2メートルほどの円が描かれている。その中に立って、ハンドボールを片手で投げる。
恭子は大きく振りかぶって、つかんでいたボールを放り投げた。ボールは青空を大きく弧を描いて跳んで、そしてゆっくりと放射線状の線が描かれた地面の下に降りていった。
「今までで一番いい記録だったわ。やっぱり、作戦勝ちね」
測定が終わってから、恭子が嬉しそうに言った。
「僕も、今のところ、どの種目も上のほうのレベルに来ているよ。あと、三つを残すだけ。このペースで頑張っていこう」
二人は芝生をわたり、次の種目である五十メートル走が行われている、短距離コーナーに向かっていった。
「あら、勇人じゃない、来てたの?」
突然、後ろから聞きなれた女子の声がした。振り向くと、以前の学校で同じクラスだった、育美が立っていた。
「おや、育美じゃないか。そっか、この町の学校に進学していたんだっけ」
「そっ。今は、バレー部のキャプテンになるのよ」
恭子のほうは、急に歩みを止められ、この女子を不思議そうに見ていた。
「こいつは、以前は同じ学校だった高崎」
勇人は育美を恭子に紹介した。高崎育美は、白い丸首の半袖体操服に紺色のブルマーを履いている。丸顔に、ふくよかな彼女の体には、体操服がきつそうなくらいだ。ブルマーから出ている太ももも太くたくましいくらいだ。
対して恭子のほうは育美より背は高いが、スレンダーな体型だ。半袖体操服で薄着の育美に対して、恭子のほうは、臙脂のジャージ上下で、ファスナーを首元までしっかりと上げている。こうしてみると、全く対照的な二人が並んでいることになる。育美のほうは、ちらっと恭子のほうに目を向けたが、すぐに勇人のほうに向いた
「わざわざ新競技場の体力測定に来てくれたのね。ところで勇人は今、何の部活をしているの?」
「文芸部だよ。こっちは同じ部員で、稲井恭子と言うんだ」
「……文芸部?」
育美は不思議そうに言った。
「どうして、文芸部なんかが、何で体力測定になんて出ているの?」
「実は、文芸部だって運動部と同じ部活動だ、ってことを証明しなくてはならなくなってね。今回の大会でいい成績を修めないと、部活動自体がなくなっちゃうかもしれないのでね」
「へえー、勇人もそれは大変ね。それなら、稲井さんの分までしっかりと頑張らないといけないわね」
育美はさらっと言ったが、その言い方が今まで黙っていた恭子を刺激してしまったらしい。恭子は急に口を開いて、
「それって、どういうことですか? わたし、勇人の足を引っ張るようなことなんかしてませんよ」
「だって、文芸部って部屋の中で閉じこもっているばかりの部活なんだから、運動なんてあまりしてないでしょう」
「そういう高崎さんは、どうなんですか? わたしの記録、途中までですけど、御覧になります?」
恭子が育美に記録カードを突きつけた。記録は育美の予想とは違ったもののようだった。少し意外そうな様子だったが、それでも平静な様子で、
「でも、まだ三つ種目が残っているじゃない。これだけでは、まだ、どうなるか、分からないでしょ」
「それじゃあ、わたしと勝負しませんか。五十メートル走、幅跳び、クーパーテストの三つの三本勝負で。どうですか」
恭子は育美のほうをグッと見ていった。
「それは面白そうね。ちょうど恭子さんと同じ種目を残しているから、勝負しましょう」
「もともと運動部との闘いだったのでちょうどよかったです。勇人には立会人になってもらいましょう」
こうして、バレー部・高崎育美と文芸部・稲井恭子の対決が行われることになった。
① 握力
机の上に測定器が置いてあった。これを力強く握る。左右二回ずつ、測定する。測定している時、恭子は「う~んっ」と思わず声が出た。
「女の子にとっては、握力って、数値が良くても、なんだか気恥ずかしいのよね」
と恭子。
② 背筋力
握力のすぐ隣のコーナーである。背筋力計の台の上に乗って、ハンドルを握る。そし思いっきり上体をそらす。恭子はグッと歯を食いしばり、体を思いっきりそらしていた。
③ 立体位前屈
四十センチくらいの高さの台があり、その上に測定器が載せてあった。
恭子は台に上がると、ひざを曲げずにハ~と息を吐きながらかがんだ。ジャージの袖から出た手が、バーをグッと下におろした。体を曲げたとき、背中がピーンと伸び、ジャージの上着の裾が上がり、その下から白いシャツがほんの少しだけ見えた。
恭子に続いて勇人が台に立つ。恭子と一緒だと、どんな種目でも、恭子よりはいい数値を出したいという気持ちが働く。
④ 伏臥上体そらし
ペアで行う。ベンチが置いてあり、その端に縦棒の測定器が立ててある。
今度は先に勇人のほうから測定した。勇人が両手を腰の後ろに組んでベンチの上にうつぶせになって寝る。恭子が助手としてその上に座り、足の間に体を置いて、太ももを押さえる。その状態のまま勇人は体をそらして顎を上げる。担当の先生が、測定器の目盛を読む。
2回測定すると、交代する。今度は恭子がうつぶせになり、その上に勇人が乗る。先生の合図で恭子はぐっと顎をそらせる。
「はいOKです」
先生が声をかけると、恭子はゆっくりとベンチから体を起こし立ち上がった。
⑤ 閉眼片足立ち
アイマスクをつけ、手を腰に当てて、片足を上げてそのままの姿勢を保つ。そのままどれだけ立っていられるかを測定する。一見、簡単そうに見えるが、ずっと耐えているのはなかなか難しい。思わずよろけそうになる。これも二回おこなった。
⑥ 全身反応時間
板の上に立ち、前に置かれた信号が点滅するとジャンプする。これは五回測定した。
「わたし、眼鏡、もってきたほうがよかったかも」
と恭子。
⑦垂直跳び
指にチョークをつけ、体育館壁面にあるボードに向かってジャンプしてタッチする。
少しかがんでからジャンプするのがコツだ。縮めた臙脂のジャージの恭子の体が、腕を伸ばして、勢いよく飛び上がると、ボードに手が当たり、バンッと音を立てて落ちていく。二回測定した。恭子に続き、勇人がボードの下に立つ。眺めている恭子には、文芸部としてはいい結果を出してほしいが、自分の数値を大きく越されてはなくない、という気持ちもあった。
勇人の測定が終わってから恭子が言った。
「軽いものは以上のようだけど、それでも連続だと、いい運動になるわね」
「種目の数としては半分以上、こなしたわけになるけれど、その分、残りは時間もかかるしハードになって基礎うだね」
「初級編はこれにて終了。次は中級へと進みますかっ」
⑧ 反復横跳び
体育館の中央の床に白いラインが3本、1メートル間隔に引いている。その中央のラインにまたがって立ち、笛の合図があると同時に、右側、中央、左のラインへと横にジャンプする。二十秒間の間に、どれだけ跳べたかを計測する。今までは一人ずつ測定していたが、今度は、一回に十人くらいが並び、一斉に行われる。
ピッという笛の合図と同時に開始した。
右、中央、左、中央、右、左……。
だんだんとペースが速くなってくる。練習を一回した後、二回測定した。二十秒という短い時間だったが、終わってみると今までのものと比べて息が切れる。
「さすが、中級編だけど、一気にレベルが上がったわね」
⑨ 踏み台昇降運動
壁際に台が置いてあり、前後に上ったり下りたりを繰り返す。これも10人ほどが並んで、一斉に行う。先ほどの反復横跳び以上に大きな音を立てる。何だかダンスのようだ。
最初のうちは楽しく上がったり下りたりをしていたが、次第に自分の意志を離れて、体が勝手に動くようになってきた。ただ、音楽が鳴る間は止まらない。やっと、終わりの笛が鳴った時は、勇人も恭子もハーハー言っていた。たった三分の間だったのだが、実際は十分くらいに感じられた。しかし、本当の測定はむしろこの後だ。
二人はいったん体育館を出て、横にある小部屋に移動した。中では測定係の先生たちが待っていた。勇人たちは向かい合って座り、腕を差し出した。先生は脈を図り、定期的に記録簿につけていく。先ほどの踏み台証拠運動の時の興奮が次第におさまってきて、ゆっくりとした時間が流れてきた。息が落ち着いてきた。休息の時間だ。
「はい、終わりました」
測定が終了した。体も大分、回復した。二人は立ち上がり、再び体育館へ戻り、次の測定に向かった。
⑩ 上体起こし
二人一組になる。マットが敷いてあり、測定を受ける人はその上に、あおむけで寝転がる。両膝は曲げて、腕は首の後ろに組む。もう一人は補助として、寝ている人の足の甲をしっかりと押さえる。まず、勇人が寝転がり、恭子が足を押さえてくれた。この姿勢で三十秒間、上体を起こしては元の状態に戻す、ということをできるだけ繰り返す。「はじめ」の合図とともに、一斉に始めた。「⒈・2・3・4ッ」と言いつつ体を上げる。とにかく回数をこなそうと何度も起き上っては寝て、また起き上っての動作を繰り返した。
これも強度の高い運動だった。終わってから少し休んでから、二人は交代した。
「しっかり押さえておいてね」
「りょうかい」
勇人は恭子の足の甲を握った。臙脂のジャージのズボンの裾から、白い靴下が見えた。しっかりと肉のついた足首だった。恭子は手を首の後ろに回す。
「はじめ」
合図とともに上半身を起こす。上がっては戻りあがっては戻りを繰り返すたびに、髪が揺れる。勇人と同じように終わりが近づくにつれ、ペースが速くなる。
「やめ」の合図が出ると、恭子の体はゆっくりとマットについた。勇人はゆっくりと手を放した。
「――回だったよ」
「うーん、まあまあかな」
起き上りながら、恭子は髪をかき上げつつ言った。
体育館の種目はこれですべて終わったことになる。残りは屋外の種目になる。二人は靴を履きかえて、開会式が行われたグラウンドに出た。
「勇人は、準備はどうなの?」
列車の中で恭子が聞いてきた。
「ちゃんと、何もかも持ってきたよ」
「そうじゃなくて、トレーニング」
「毎日、近所のスポーツジムに通っていたよ。恭子は?」
「わたしも毎日、朝夕、五キロ走っていたわよ」
三駅で列車は目的の駅に着いた。駅前からバスに乗り、二十分ほど走ると、競技場前についた。この競技場は、陸上競技トラックに体育館、それにプールも併設された大きな施設だ。僕たちは入り口で受付をすませ、記録用のカードを受け取った。
「受付を済ませたら更衣室に行ってください」
係りの人の指示に従って、二人は更衣室前でいったん別れた。そこで荷物をロッカーに入れ、着てきた学ランも脱いで、ジャージになった。これで体力測定に臨む態勢になった。勇人が更衣室から出てすぐに、同じくセーラー服の上着を脱いで、臙脂色のジャージ上下になった恭子があらわれた。恭子のほうはいつもかけている眼鏡も外していた。眼鏡をかけていない恭子は、きりっとした目をしていて、凛々しく運動神経がよさそうな感じがした。
「運動するときは、いつも眼鏡は外しているのよ」
二人は準備ができると開会式のあるグラウンドへ向かった。競技場にはほかの学校の生徒たちがすでに集まって、思い思いに準備体操をしたり走ったりしていた。野球部など部活動のユニフォームを着ている人たちもいた。当然ながら日ごろから運動をしている感じの生徒たちが多い。
「僕たちも、まずはウォーミング・アップをしておこう」
勇人と恭子は向かい合って屈伸などの準備体操をした。しばらくすると整列するようにとの放送が流れた。ほかの人たちとともに、勇人たちも並んだ。開会式の始まりだ。競技場の主任という人が壇上に出てきて、挨拶をする。
「――皆さんの日ごろの運動の成果を、ここで是非見せてください。いいけっかがでることを楽しみにしています」
それが終わると、今日の流れについて一通りの説明があって、それが済むといよいよ競技開始だ。みんな思い思いに散っていった
トレーニング室 ①握力
②背筋力
③立体位前屈(柔軟性)
④伏臥上体そらし(筋持久力)
⑤開眼片足立ち(平衡性)
⑥全身反応時間(敏捷性)
⑦垂直跳び(瞬発力)
⑧反復横跳び(敏捷性)
⑨踏み台昇降運動(心肺持久性)
⑩上体起こし(筋持久力)
グラウンド ⑪ハンドボール投げ(瞬発力)
⑫五十メートル走(瞬発力)
⑬立ち幅跳び(瞬発力・調整力)
⑭クーパーテスト(最大酸素摂取量)
「けっこう、種目、あるなあ」
パンフレットを見ながら勇人はつぶやいた。
「正確なデータを出すためと、運動自体をたくさんさせたい、ということで、一つの能力を測定するのに複数種目を用意しているみたいね」
「どれからしていくか、ということも、いい結果を出すためにはポイントだろうね」
「最初は軽いものでウォーミング・アップをして、強度の高いものは後に回すのがいいんじゃないかしら」
「最後のクーパーテストって何だろう」
「これは十二分間トラックを走るってものね。これはかなりハードね」
「そうなると、室内でするのを先にして、グラウンドでの種目は後にするのがいいだろうね。そのほうが、まわるのも楽だし」
作戦は決まった。二人は体育館のほうに向かって歩いて行った。
体育館の扉から中をのぞき込むと、すでにたくさんの参加者がいて、熱気がこもっていた。勇人と恭子の二人は、シューズを履きかえた。
「戦闘開始!」
「文芸部、ファイト!」
新学期が始まってしばらくたった、ある日曜日。
「おまたせっ、ゆうとっ」
駅で立っている勇人が振り向くと、同じ文芸部の稲井恭子が立っていた。
「おはよー。来たね。準備万端だね」
勇人は恭子を見て言った。恭子はいつもの学校のようにセーラー服姿に眼鏡をかけているが、下はスカートではなく、臙脂色生地に、白のラインが二本入ったジャージのズボンを履いている。また紺色のセーラー服の上着胸当てからは、下に着ている、ファスナーをきっちり締めたジャージの襟が見えていた。肩にはスポーツバッグを提げている。
「勇人のほうも大丈夫ね」
恭子が言った。花紺色のジャージのズボンに、黒の学ランの上着を着ている。腕を上げると学ランの袖口から、下に着ている花紺色のジャージの袖が見えた。
「今日は僕たちの大事な大会だものね」
「われらが文芸部・初の遠征てところね。こうして休日に出るのって、楽しいわね」
「ただ、そう楽しんでばかりもいられないよ。何しろ、今日の結果で部の存続がかかっているんだからな。さ、そろそろホームに上がろう」
勇人と恭子は並んで、駅の階段を上がっていった。
約2か月前の、学年末試験が終わった日のことである。始業式の日の放課後、勇人と恭子は、文芸部の顧問である戸倉先生に呼ばれた。
「実は、困ったことになってね。春休み中の部活動会議で、文芸部を亡くそう、という話が出たのよ…」
戸倉先生は五十代の女性の国語の先生。先生の話によれば、その会議で、大会戦績のない部活動は廃止していこう、という話が出たのだ。
「運動部は毎日頑張って、朝から晩まで練習しているのに、一方で特に何もしないでダラダラと部室を占領し、部費をもらっている部があるなんておかしい」
というようなことまで、言われたそうだ。どの先生が言ったかということは、先生はさすがに伏せていたが、僕には大体見当がついていた。いつも苦虫をつぶしたような顔をしている、野球部の監督をしている、大田だ。そういう野球部だって甲子園にはまだ出たことないのに、と僕は思ったが、おとなしい戸倉先生は、何も言い返せず我慢したのだろう。部員も、今は勇人と恭子だけだし、四月に新しい部員が入ればいいのだが、それ以前に潰されそうだ。勇人が黙ってそんなことを思っていると、恭子が突然、口を開いた。
「文芸部だって、運動部並みの実力がある、って証明できればいいじゃないかしら」
「でも、そんなのどうやるんだい?」
「体力測定なんてどうかしら」
「体力測定って、どこでするんだ」
「今度、隣町で新しくできた競技場で、4月に体力測定大会があるって聞いたの。それに参加して、測定結果を見せれば納得するんじゃない」
「なるほど。それはよさそうだね」
「じゃあ、そうと決まれば、今日から特訓ね」
ということで、文芸部の二人は最初の「遠征」に出ることになったのだ。
