牛丼再生物語 ~こうして𠮷野家は復活した~
7/15(金)にロサンゼルス郊外のニューガーデナホテルで行われた、Office SAMURA、Weekly LALALA主催の講演会「牛丼再生物語 ~こうして𠮷野家は復活した~」を聞きに行ってきました。
スピーカーは、株式会社𠮷野家ホールディングスの安部修仁会長。 安部会長は、𠮷野家にアルバイトとして入り、その後正社員、社長となり、22年間という長期間にわたって経営の指揮をとった「ミスター牛丼」の異名を持つ、まさに超ミラクル&スーパー経営者です。
経営職の在任中には、𠮷野家の倒産劇、さらにはBSE問題による2年半に渡る牛丼の販売停止という、経営の絶体絶命の危機が2度もあり、そうした中でどのようにして𠮷野家は復活したのか、ということをテーマに2時間半、熱く、そしてこと細かくお話しをお聞かせ頂きました。
裏話的な話も多く、この場で書くのに相応しくないこともあるかと思いますので、具体的な事象を書くのは極力避けて、人生論、経営者・リーダーとしての考え方で、特に強く印象が残ったことを備忘録として記しておきたいと思います。
1. 会社(人)として大事なものは有形のものではなく無形のもの
実質的に会社としての𠮷野家の基礎を築いた松田瑞穂氏が、会社としてのビジョン、コアバリューを築きあげた。つまり「美味い・早い・安い」などのお客様の食のニーズに応えれるよう研究に研究を重ねた物・サービスを徹底して提供しつづけるのが𠮷野家のビジョンであり、コア・バリュー。
講演者の安部会長は、その「創業者」が築いたものを「承継者」として、それを崩すことなく、引継ぎ、時代の流れに合わせて変化させていくのに徹底してきました。それが「創業者」と「承継者」と違いであり、安部会長がその「承継者」としての役割に徹底することを強い信念として22年間やり遂げたことが強く伝わってきました。
また、承継というのは、有形のものではなく無形のものだという。有形のものは常に時代の流れ、お客さんの嗜好を感じ取りながら変えていけばいい。なので、𠮷野家として「牛丼」にはこだわりはないと言い切ります。 つまり「牛丼」というのは、𠮷野家のビジョン、コア・バリューの実現するための手段であり、大切なのは「牛丼」ではなく、「お客様の食の要望を満たすサービス」を徹底して行うということなのです。
𠮷野家のキャッチフレーズである「美味い・早い・安い」も、時代の風潮に合わせて、これまでも3つの順番を入れ替えてきたそうです。 𠮷野家は、単なる牛丼屋さんとしてこだわっているのではなく、お客様の食の要望を満たすサービス会社ということが強く伝わってきました。
実際のところ見た目の上は、私たち企業・会社は有形物を売ることになることが多いのが現実ですが、その物は単なる媒介物であって、本質的にはサービス、さらに言えば、ハート、思いをお客様に提供しているのだということなのです。
2. 従業員とも、物やお金よりもハート
𠮷野家は2度の経営危機をどのように乗り切ったか。 まずは一度目、(最終的には会社更生法が適用されることになるが)会社が破産に向けてカウントダウンが始まった際に、当然ながら次々と従業員が辞めていきます。その際、破産までは何とか経営を持続していくために従業員たちを引き留めるのに四苦八苦したそうです。各自の性格や家族状況などを考慮して、色々な説得方法を考えて引き留めたそうですが、やはり最終的に大事なのはお互い面と向き合い心を通じ合わせて人として「この人となら例え失敗してでも一緒に最後まで仕事をやり遂げたたい。」そんな人たちが最後まで残ったのではないかと、熱く語る安部会長の言葉からは感じられました。
2度目のBSE問題の危機に際しても同様で、結果的に今から振り替えるに、経営判断としての是非は色々あったかもしれませんが、そういう「正しい、正しくない」の判断を超越して、安部会長の熱い気持ち、情熱を信じて、従業員一丸となって危機を乗り越えようとしたことが、より一層𠮷野家の団結力を強くさせ、その苦難を乗り越え、今日の𠮷野家があるように思いました。
リーダーシップ、マネジメント力というのは、危機的な状況時にいかにうまく発揮できるかが重要。そして企業経営も、私たちの人生も、強い団結力、そしてチームとして力を発揮できるのは、物や金ではなく、テクニックやノウハウでもなく「ハート」なのです。
3. 成功する人、しない人
成功した人になぜ成功したのかと聞くと、必ずと言っていいほど「自分は運が良かった。」とか「あの時、左か右を行くかの判断するのに、右を選んでラッキーだった。」とか、多くの人は運・不運で、成否が分かれるというように言います。
安部会長は、そうではないと言い切ります。 成功する人は、右か左かを選ぶかの運命の選択をする際に、例え右を選ぼうとも左を選ぼうとも、いづれにしても成功すると。というのも、成功する人は、例え誤った判断をしても、そこからまた苦難を乗り越え這い上がってくるし、その教訓を得てより良い判断をしていくようになる。その判断・苦境からの這い上がりを繰り返しているうちに、成功確率も高くなっていき、最終的には大成功にたどり着く。 失敗なくして成功はあり得ないし、失敗から得た教訓を得て成功していくものだというのです。
一方、成功しない人は、成功しない原因が世の中の状況や、競争相手のせいにしてしまうので、いつまでたっても改善が見られず、成功に行きつけないとのことでした。
成功する方法はただ一つ、失敗から学び、それを次につなげること!
4. 長所は短所であり、短所は長所
BSE問題の際は外的要因による経営危機でしたが、1度目の危機の際は、成長を急ぎ過ぎた企業内部の問題に起因する経営危機でした。そのため、その際は、マスコミ始めさまざまな所から𠮷野家の経営方針の問題点を挙げられてそうです。例えば、牛丼単品がダメとか、牛丼は時代おくれ、女性が入りづらいとか。
安部会長いわく、光り輝くものには陰もある。どのようなものにも長所(特徴)があり、その裏には短所もあると。所謂、マーケティングの分析でも、短所を見つけ出し、それを短絡的に改善しようといういう風に至ってしまうが、それは違うということです。短所を改善してしまうことは、長所(特徴)を消してしまうことになると。
世間、他人の批判を恐れず、お客様と向き合い、そのニーズに応えれる長所(特徴)に力を入れ突き進んでいくことこそが、バリューとなり成功する秘訣なのです!
5. 注視するのは競争相手ではなく、お客様
今回の話を聞いて、私自身強く衝撃を感じたことは、𠮷野家は、常にお客様と向き合い、どのようなサービスを提供すれば良いかを研究しそれを追求しているということ。 もちろん、自分たちの経営に影響を及ぼす範囲においては競合他社を気にすることはありますが、基本的には注視するのは、お客様!ということを徹しています。
一般に企業では競争相手の分析を行い、それを上回る物やサービスを提供するかを研究することが多いかと思いますが、𠮷野屋は徹底してお客様と向き合うことに力を入れています。
それがイノベーターであり、業界のリーディーンカンパニーであり続けれる理由!
6. ドン底があるからこそ、成功がある
企業経営も人生も、ドン底に悪い時あるからこそ、その後に良い事(成功)もある。 逆に良い事(成功)があれば、奈落の底に落ちる悪いこともある。 その繰り返しだと。
ドン底の悪い時にあきらめることなく耐えしのげば、きっと成功する。 逆にうまくいっている時に油断をすれば、落とし穴がある。
これは、多くの成功、苦難を乗り越えてこられた安部会長ゆえに説得力のあるお言葉、良い状況の時に甘んずることなく、そして悪い時には明るい未来を強く信じて、地道に一歩一歩前に進んでいきたいと思います。
少し書きすぎたかもしれませんが、私として印象に残ったこと、忘れないでおきたいことを書き残しておきました。
このような素晴らしいお話しが聞けましたこと、安部会長、そして主催者のOffice SAMURAさん、Weekly LALALAさんには感謝の気持ちで一杯です。
ケトルベル魂 HIRO