・  (ラエリアンムーブメント・アジア大陸代表のブログより)

ワイロが中国人の活力の素であり、社会の潤滑油だったので、それが無くなると上手く回転しないようですね。

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官僚の“不作為”が中国経済の失速を招くか

1964年、愛知県生まれ。北京大学中文系に留学したのち、豊富な人脈を活かした中国のインサイドリポートを続ける。著書に『苛立つ中国』(文春文庫)、『中国という大難』(新潮社)、『中国官僚覆面座談会』(小学館)、『ルポ 中国「欲望大国」』(小学館新書)、『中国報道の「裏」を読め!』(講談社)、『平成海防論 国難は海からやってくる』(新潮社)、『中国の地下経済』(文春新書)、『チャイニーズ・パズル―地方から読み解く中国・習近平体制』(ウェッジ)などがある。

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第2のゴールデンウィークと呼ばれる国慶節の休み。10月1日から7日までの間には、延べ4億8000万人が旅行に出ると予想され、移動の人数は前年同期に比べて13%も増加した。

チャイナ・ウォッチャーの視点

めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリストや研究者がリアルタイムで提示します。

高額商品は海外で買いたい

相変わらずの盛況ぶりだが、今年はその旅行の中身に変化が起きていた。


「実は、国内旅行が低調だったのです」と語るのは、上海の旅行業界の関係者だ。


「中国国内の観光地として有名な、例えば世界遺産でもある四川省の九寨溝は、昨年に比べ約40%も観光客数が減り、黄山など中国の五大山でも約30%減と落ち込みました。これにつれ各観光施設の入場料収入も対前年比で4.75%減になっています。つまり、ここから分かるのは、中国人の旅行は、いまや国内ではなく、海外に行って楽しむ傾向が顕著になったということです」

 

金持ちになれば外に目が向くのも自然なことだが、問題はここに国内をあえて避ける現象が見られることだ。


 「休日に空気のきれいな海外に行きたいという旅行者の傾向は、国内で海南島が人気であることかも察せられますが、理由はそれだけではありません。中国は海外で高級ブランドを買い漁る旅行者の消費行動に、資産流出を警戒し始め、海南島の三亜に巨大なモールを建設していますが、いま一つ振るわないのが現実です。やはり高額商品は海外で買いたいというのが本音なのでしょうね」


 海外でより旺盛な消費を見せるといった傾向は、この国慶節でさらに定着したようなのである。

「ぜい沢禁止令」の弊害

 9月30日付『経済参考報』は〈2013年の統計によれば、ぜいたく品を買っている人々の約73%が海外で消費し、その数字は対前年比で8%の増加だという。これはつまり20%の中国人しか国内でぜいたく品を買っていないということだ〉

 と懸念を伝えている。


 中国経済の未来については国際機関の多くが失速しても底堅いという評価を与えているが、その条件として地方債務問題と不動産問題のソフトランディングを指摘している。加えて経済の構造転換の必要性が強調されるのだが、そのためにカギとなるのが消費である。その中国経済にとって、いま何よりも栄養となる消費が国内を離れ海外に比重を移しているとなれば深刻である。


 いったいなぜなのだろうか。国務院のOBが解説する。


「それは習近平国家主席の進めた『ぜい沢禁止令』(八項規定 六項禁令)の影響です。公務員でなければ関係ないとはいえ、ブランド品を遠慮なく買うことのできる人といえば公共事業で潤っている中国の現状を考えれば大なり小なり国と関係がある人でしょうし、そうでなくてもいまや国内でぜいたく品を買って目立つことのリスクは高まっています。どうせなら海外で心置きなく買い物を楽しみたいというのが本音でしょう」


 高額消費をする人々が国内から海外に逃げ出してしまったのは、現代の“整風運動”と評される規律引締めの望まれない副作用といえるのだろう。

 そもそも反腐敗キャンペーンもぜい沢禁止令も狙いは格差から生じる人々の不満を警戒したものだ。経済にダメージがあるとはいえ、急激に二つの手綱を緩めるわけにはいかない事情もある。共産党にとってまさにディレンマともいうべき試練が横たわっていたというわけだ。

「史上最強の特務機関」による厳しい取締り

 だが、実は反腐敗キャンペーンとぜい沢禁止令による副作用の問題はこればかりではない。怒れる大衆を意識して引き締めを強め過ぎた結果として、特権を奪われてしまった巨大な利権組織に属する官僚たちの静かな反攻が始まっているからだ。


 反腐敗には政争の要素もあれば、官僚のモラル改善という意味もある。その使命を担う一つの組織こそ中紀委の下に設けられている中央巡視隊(組)だ。中央巡視隊が設立されたのはもう10年前になるが、休眠状態にあったこの組織を活性させたのが習政権だった。


 「中央巡視隊はいま、習近平の出した『倹約令』に従い、ものすごい勢いで官僚を取り締まっています。最近は、大きな都市を結ぶ高速道路の出口で張っていて、黒塗りの公用車が通ると、それらを片っ端から停めてトランクの中を改めるというやり方が続いていたようです。彼らが強制的に開けさせたトランクには、たいてい高級酒や土産物が大量に見つかります。その品物が誰かから贈られたものか、または誰かに贈ろうとしているのか、いずれにせよ倹約令に違反するものでしょうから、彼らの追求を逃れることはできなくなります。官僚たちはいま、こうした中央巡視隊のことを陰で〝現代の東廠〟と呼び、蔑みながらも恐れているのです」


 東廠とは明代に存在した皇帝直属の特務機関のことで、史上初めて生まれた特務機関ともいわれる。なかでも東廠が有名なのは、与えられていた権限の大きさから、「史上最強の特務機関」として知られている。


官僚の“不作為”で80年代に逆戻り?

 だが、官僚側も東廠を恐れているばかりではない。「静かな抵抗はもう始まっている」と語るのは党中央の関係者だ。


 「いま中央政府に持ち上がった新たな悩みは官僚の“不作為”です。不作為とは何もしないことですが、いまの官僚の生活をたとえるならば、『賄賂も贈り物も受け取らない。高級酒も飲まない。宴会もしない。公用車も使わないし海外視察にも行かない。しかし、仕事もしない』というものです。


反腐敗キャンペーンに続くぜい沢禁止令で役人の楽しみが奪われ、それがいよいよ本気だと分かった段階から役人たちの側にもそれへの抵抗としてサボタージュが起きているのです。みな、政治学習の名前を借りて一日中『人民日報』を読むふりをしながら新聞に隠して小説を読んでいます。そして早々に帰宅しますから社会の生産効率が上がるはずはありません。これは、とくに地方で顕著になっている現象ですが、中央で頭を痛めているのが経済をあずかる李克強首相なのです」


 まるで80年代の中国に逆戻りしたかのようなやる気のない官僚気。当然、中央政府はこの現象の広がりを放置するはずはない。


 「今年6月初旬、国務院は督査隊(組)を16の省・市及び27の機関に対し派遣しています。結果はすべて李首相に報告され、それを受けて国務院常務会議を開きました。この席上、李首相は一部の役人たちの間に見られるサボタージュを“新たな腐敗”と位置付けて強く批判しました。一説には机を強く叩く場面も見られたといいますから、よほど怒っていたのでしょう。会議では、李首相の『事を話し合い、策を決めても、それを実行しないのであれば効果があるはずがない』という発言もあったとされます。危機感は強いはずです」(同前)


 中央巡視隊を派遣してモラルを取り締まらなければならないだけでなく、督査隊を送って面従腹背とも戦わなければならないとは驚きである。そして、この現象が中国経済に与える影響は実に深刻だ。もし“不作為”が全国で蔓延すれば、中央が発動するどんな経済政策も途中で骨抜きにされかねない。そんなやっかいな体質を内部にかかえてしまったとすればマクロコントロールは不自由になる。


中国経済のさらなる失速要因となるか

 あるファンドの関係者は、経済への影響はすでに深刻な現象として出てきていると指摘する。


 「実際のプロジェクトで停滞してきているものが目立つようになってきています。とくにクリーンエネルギー分野で、それが顕著で、風力発電などはたくさんのプロジェクトが開店休業状態です。こうした問題が広がれば、中国経済にとっては大きなダメージになるでしょうね」


 今年7月に発表された4月-6月期のGDPの成長率が7.5%を上回り、中国経済は停滞を脱したと多くの新聞が報じだが、これは鉄道関連事業など公共事業を行うことで実現されたものである。中国経済にとって大きな太い柱である投資で数字をコントロールすることの有用性は明らかだが、もし不作為という現象が蔓延すれば、中央という脳の発した信号を手足が実行しないという事態にも陥りかねない。そうすれば政策の効果も期待できないのだ。

 

“不作為”が中国経済失速のさらなる要因になるのか、見極めが必要だろう。


http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4308?page=1