孫崎 享 さんの記事です:

Date: Thu, 18 Apr 2013 16:33:29 +0900

Subject: TPP:テレビ朝日「そもそも総研」での古賀 茂明氏との討論を終えて

実は、今回、テレビ朝日「そもそも総研」でTPPの討論を行ったこと自体に意義がある。


経緯に次のものがある。


・3月14日(木)のテレ朝日「そもそも総研タマぺディア」に出演してTPPに関して「日本が交渉参加しても先発9か国がすでに決めたことを変更 できない」ことと「ISD条項によって米国大企業が日本の国内法や規制の不当を訴えて日本政府に莫大な賠償金を請求することができる」の2点 を指摘した。


・大西英雄自民党衆議院議員は3月21日にNHK予算案を審議する衆議院総務委員会で孫崎氏を「とんでもないことをTVでしゃべっている」と批判 しNHK会長にNHKに出演させるべきでないと述べた。


この動きは明らかに政府に不都合な発言をするものに対する言論封殺の動きである。


NHKが大西議員の要求にどう対応しようとしているか不明である。


しかし、発端のテレビ朝日「そもそも総研」が再度、TPPのISD条項を取り上げた。

少なくとも「国会での発言に容易に屈しない」ことを示した。このこと自体大変に重要であると思う。


しかし、テレビ朝日「そもそも総研」は一つの安全装置を埋め込んだ。


私の論に対して、推進派の論客古賀 茂明氏をもってきて、論争をさせる形態をとった。


私の論は危ない。少なくとも政府の人間はそう思っている。


「そもそも総研タマぺディア」がこの形をとったのは、昨年の12月31日以来。

この時は尖閣諸島問題で、ここでも私が出て、相手が宮家氏であった。私の論はISD条項によって、「企業の利益確保の理念が国家の法律の上に行く制度である、したがって国家主権が侵される」というものである。


さらに法律は、生命、健康、環境、社会格差の是正など様々な要件で決定される。経済の効率化だけで社会を律せればよいというものではない。


これに対する古賀氏の反論は次のようなものであった。


o 投資保護協定は、投資条約などで3000以上の条約に盛り込まれている、


o 経済に関する限り、自分の経産省の経験では米国の主張が無茶苦茶ということはあまりまく、日本の反論の方がおかしいという時がしばしばあった。


o TPPにおいては農協、医師会など既得権益を守りたい人が反対している、


o ISD条項の裁判を見ると、かならずしも米国企業が一方的に勝っているものではない。


これに対して私は次の反論を行った。


o 投資条約は多くの場合、法整備、裁判制度が整っていない国に対してISD条項が適用されている。これはそれなりの意義がある。しかし、日本など法律、裁判制度等整っている国に対して適用することになると、その意義はすっかり変わる、


o 私は北米自由貿易協定(NAFTA)の締結の頃、カナダにいた。この時にはカナダでは自由貿易による利益のみ、説かれており。ISD条項は全く論議されていなかった。


o しかし今米国の製薬会社イーライリリー社がカナダ政府を訴えている。これは薬品の特許を付与するに際して、裏付けのデータが不十分(22の患者を対象に1治験)であるとして、カナダ最高裁判所までいって付与をしない決断がされたものである。これに対してイーライリリー社はISD条項を用いて1億ドルの損害賠償をカナダに要求している、


o かつての通産省は米国の要求を丸呑みすることはせず、しっかり反論していた。しかし、現在の安倍政権では全く違う。米国との事前協議が示すように日本は自分の主張をとうす能力がない


o 米国の関税は2%程度でほとんど日本の輸出に影響がない。かつ日本の輸出でみると対米輸出は15.5%程度、他方東アジアは38.5%程度。日本にとっての重要度は東アジアになっている。東アジア諸国はTPPに参加しない。


これらの論点に対する古賀氏の明確な反論はなかった。


TPP賛成論者は「米国に追随して悪くわなかった。だから今後も大丈夫だ」の論の域を出ないようだ。


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http://ch.nicovideo.jp/article/ar200858


孫崎 享
駐イラン大使
外務省国際情報局長 1997年-1999年
駐ウズベキスタン大使(初代) 1993年-1996年





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