さて、お次の作品は『アポロとダフネ』です。

 このお話はちょっとばかり悲恋‥といいましょうか、神の悪戯(いたずら)が行き過ぎたといいましょうか‥なんとも神話らしいお話です。


 ダフネは河の神の娘で月(狩り)の女神アルテミスに仕える少女です。アルテミスと言えば永遠の処女神で、彼女に仕える少女たちともども男性には目もくれず、野山を駆けめぐり、狩りに明け暮れる日々を過ごしています。

 一方のアポロはアルテミスの双子の兄で太陽(芸妓)の神。ある日アポロは弓矢で遊ぶエロス(キューピッド)を「子どもがそんなものをおもちゃにしちゃいけない」とからかい、むっとしたエロスは「恋い焦がれる金の矢」をアポロに、「嫌って嫌って嫌いぬく鉛の矢」をダフネに放ちます。

 かくしてアポロはダフネにぞっこん‥彼女を追いかけまわすこととなり、ダフネはそれを嫌悪して逃げ回る‥という状況に落ち込みます。

 ダフネがいくら健脚を誇っても、アポロは格上の神であり男性でもあります。ついにアポロがダフネをとらえようとした瞬間、彼女は絶望して叫ぶのです。「お父さま、このままでは私はこの男性のものになってしまいます。どうぞ清らかな娘のまま死なせてください!」

 彼女の願いは父親によってすぐに叶えられ、彼女の身体は見る見るうちに一本の木―月桂樹―へと変化してゆくのでした。

 恋しい人の変わり果てた姿を目の前にして、呆然とたたずむアポロ…。

 せめてその形見にと、月桂樹の葉を編んで冠とし、それ以後アポロは身に付けることにしたのでした。


 この彫刻はアポロがダフネをとらえようとした瞬間、ダフネが少女から月桂樹へと変貌してゆくその姿を彫上げたものです。

 動と静の鮮やかな対比、追いすがる恋に焦がれるアポロと、何としても逃げたい必死なダフネ。彼女の指先から枝葉が伸び、月桂樹へと変貌してゆく女性の肢体…。

 こうしたことが、大理石で表現可能だなんて…ただただ驚きです。そしてその美しさに本当にみとれてしまいます。


 アポロにとってはほろ苦い失恋の一コマとなるわけですが、そこに「永遠の青春」と呼びたくなるような、ガラス細工のように透明で繊細な‥でもとても真摯なものを感じるのは私だけでしょうか…?

                                    Buona Fortuna!

ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ作 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%AD%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%84%E3%82%A9%E3%83%BB%E3%83%99%E3%83%AB%E3%83%8B%E3%83%BC%E3%83%8B#/media/File:ApolloAndDaphne.JPG 『アポロとダフネ』