オーストリア編の最後を飾るのは19世紀末に活躍したウィーンの画家、グスタフ・クリムトです。

 黄金色がちりばめられた彼の作品はきらびやかで新年にふさわしいですね(笑)。

 とても官能的で濃厚な彼の表現は時代背景を考えるとすこぶる前衛的かつ衝撃的です。彼の代表作ともいえる『接吻』なんて、ぶちゅーーーーって感じですものね!(笑)観ている側のほうがどきどきしてしまいます。

 でも彼が描く人間(主には女性)はゴージャスに飾られているにもかかわらず、血肉の通ったすこぶる人間的な存在です。ですから一見装飾的なのですが、観ている者の感情を揺り動かす力を持っています。

 男女の愛≪エロス≫を基調にした作品が目立ちますが、眩い光の下により暗い影ができるように、クリムトの絵にはどこか死の影のようなものが漂っています。濃密な愛の時間は実は一瞬のスパークのようなもので、永遠とも思える闇=死の時間がつねに流れている‥かのようなイメージです。

 時には妊婦や老婆の姿、あるいは死体や死神を描いたグロテスクな作品もあります。

 どうやら「愛と死」というのがクリムトの終生のテーマであり、彼を突き動かすイメージであったようですが、それは彼の生きた世紀末という時代の雰囲気抜きには語れないように思います。

 やはり同時代を生きたオーストリア出身の精神分析家(深層心理学の開祖といったほうがいいかしら?)ジークムント・フロイトも、最終的には「愛〈エロス〉と死〈タナトス〉」というテーマに収束してゆきました。

 「愛」と「死」というのは一見反意語のようにも感じられますが、人によっては「愛」の代わりに「生」を、「死」の代わりに「無関心」などを置く人もいるかもしれません。人間の感覚は辞書で引く意味以上に言葉を血肉にしているところがありますから、自分の感性で捉えた言葉で物事を表現しており、そこには学問的な「正誤」は存在しません。

 ホメオパシーを学んでおりますと、どのような言葉が使われたか‥よりも、どのようなニュアンスでその言葉が使われているかの方がよほど重要で、その人を理解する手掛かりとなります。

 だからおそらくクリムトの「愛と死」とフロイトのそれは、共通項を持ちつつも、イメージにおいて、感覚において、その体験において、ずいぶん異なるんじゃないかなぁ‥などと妄想する次第です(笑)。

                                    Buona Fortuna!

シンプルな構図の中にあらゆるものが表現されている『接吻』をお楽しみください!
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%8E%A5%E5%90%BB_(%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%A0%E3%83%88)#/media/File:Gustav_Klimt_016.jpg