かつて光の石を手にしたとき、その石を収めた箱の上には次のような銘が刻まれていました。

 「一角獣の角より奪い取られ、われは光を失いぬ。わが名を唱えるものが わが光を甦らせるまで、われはこの扉を閉ざす。そのものに われは百年の間明りとなり、ヨルのミンロウドの暗き地底において よき導き手とならん。 されど そのものがわが名をいま一度 終りから始めへと唱えるならば、われは百年分の光を 一瞬のうちに放ちつくさん。」

 そしてバスチアンはこの石に‘アル・ツァヒール’という名を与えて光をとりもどし、のちに自分が知者であることを示すために、百年分の光を一度に放出させたのでした。「ヨルのミンロウド」の謎は未知のままに…。

 そういうわけで、この石のことを語るバスチアンの声には悲しみがこもっていたのです。

 「どうすればいいでしょう?」それでもあきらめきれずにバスチアンはヨルにたずねます。

 「では暗闇の中でさがすよりほかはあるまい。」

 アウリンの力で恐れを知らぬ心を得たバスチアンも、さすがに背筋が凍りました。深く深く地中に降り、真っ暗な中で一日を過ごさねばならないなんて…。

 翌朝、バスチアンはヨルに揺り起こされ、命令されるままにヨルのあとをついてゆくことになりました。ミンロウド坑の暗闇の中に降りてゆき、足早に前を行くヨルに遅れまいと一生懸命足を運ぶバスチアン―突出したところにぶつかっては痛い思いをしながら、懸命にあとについてゆきます。

 こうした日が何日か続き、その間にヨルはバスチアンの両手をつかむだけで、無言のうちに、吐く息でも壊れそうなうすい雲母の層を、木製か角製のヘラのような道具で、はがしてそうっととりだす技術を教えてくれました。

 日がたつにつれ、バスチアンは地下の完全な暗闇の中で迷わずに動けるようになってきました。そうしたある日のこと、ヨルは、無言でバスチアンの両手をとり、これから先は低い横坑に一人で入って仕事をするようにと指図しました。

 そこは這(は)って進むことしかできないぐらいに狭く、頭の上には原生岩石がのしかかってくるような場所でしたが、バスチアンは文句も言わずヨルの指示に従ったのでした…。

                                    Buona Fortuna!
引用・参考は前回に同じ