夏の日が続き、変わる家での日々も続いてゆきます。

 おばさまの果物は始めと同じようにおいしく、おばさまのやさしい細やかな心配りも相変わらず嬉しくて、なされるがままのバスチアンでしたが、それでも何かが少しずつ少しずつ変化を見せ始めていました。

 前ほどのひどい飢餓感を感じることがなくなったため、おのずと食べる果物の量はへってきていましたし、おばさめの甘やかしにも、満ちたりたような感じを受けるようになってきました。

 すると、そうしたものを求める気持ちが静まるのと同じぐらい、バスチアンの心にまったく別の憧れが目覚め、日に日に大きくなってくるのでした。

 それはこれまで一度も感じたことがなく、また、これまでの望みとは全く種類の違うものでもありました。

 「自分も愛することができるようになりたい」という憧れ…。

 自分はこれまでそれができなかったのだということに気付き、愕然としたバスチアンではありましたが、その望みは日に日に大きくなってゆきます。

 ある晩、バスチアンはアイゥオーラおばさまにそのことをはなしました。おばさまはじっと聞いていましたが、そのあと長い間だまったまま、バスチアンをみつめました。

 「とうとう最後の望みをみつけたのね。愛すること、それがあなたの真(まこと)の意志なのよ」とおばさま。

 「でも、どうしてそれがぼくにはできないんだろう、アイゥオーラおばさま?」

 「生命の水を飲んだら、できるようになるのよ。そうすると、あなたはその水をどうしてもほかの人に持って帰ってあげたくなるの。持たないでは元の世界に帰れなくなるのよ。」

 「じゃあ、おばさまは?おばさまは、その水を飲んだんじゃないの?」

 「いいえ。わたしのは少しちがうのよ。わたしには、自分がいっぱい持っているものをあげられるだれかが必要なだけなの。」

 「おばさまのは、愛じゃなかったの?」

 バスチアンの問いに、おばさまはしばし考えます…。

                                    Buona Fortuna!
引用・参考は前回に同じ