崩れ落ち、塔から転落したアトレーユを救出したのは、かれを主と仰ぐ幸いの竜フッフールです。

 友を突き刺して罪悪感に満たされると思いきや、自分を裏切ったことの復讐心に燃え、相手にとどめを刺すことを望んで、あとを追うバスチアン‥家臣たちが傷つき疲れ果てているのも気もかけず、駆り立ててフッフールの後を追います。(かたや飛び、かたや地を馬で行くのですから、追いつけないことなど明らかなのですが、復讐に狂った眼には何も映らないのですね。)

 ついには乗馬も供の者もすべて失い、一人きりで地面に投げ出されたバスチアンが辿り着いた先は、何もかもが狂っている「元帝王たちの都」でした。そこにいるのは一見普通の人間たちでしたが、やることなすことすべてが狂っていて、建物や町の在りようまでがキチガイのような佇まい‥。

 声をかけても何も答えは返ってきません。言葉が理解できないのです。そんなバスチアンを見つけ、声をかけてくれたのは、一匹の小さな灰色の猿でした。

 「あの連中にいくらきいてもむだだよ。すっからかんになっちまっているんだから。からっぽ人間って名づけてもいいな。」そして、ここの住人は「みんなそれぞれファンタージエンの帝王だったんだぜ―ま、帝王になろうとしたってのもいるがね。」というのです。

 そして小猿はバスチアンにこの都を見物しないか?と持ちかけます。「ま、いってみりゃ―あんたがこのさき住む町の下見ってとこだな。どうだい?」

 ぎくりとするバスチアンに、「あんた、入る資格はもうあるよ。そのための支払いはすっかり済ませてるじゃないか。」と小猿。逃げ出したいのに、磁石に引き寄せられるように歩き出してしまうバスチアンでした‥。

 道すがら、小猿はいろいろ説明してくれます。「いつの時代にも、自分の世界に戻れなくなってしまった人間はいたさ。始めは帰りたくなかったんだが、今じゃ―ま、いってみりゃ―帰れなくなっちまったんだな。帰りたいと望まなきゃならんのに、この連中、もうなんにも望まなくなっているのさ。みんな、最後の望みを何か別のことに使っちまったんだな。」

 「好きなだけいつまでも次々と望みを持てるんじゃないのか?」とバスチアンが問えば、小猿はあきれたとばかりにきゃっきゃっと笑う始末。

 そしてついにアウリンの秘密が明かされるのです…。

                                    Buona Fortuna!
引用・参考は前回に同じ