追従者たちに取り巻かれバスチアンの傲慢が極まったとき、彼は「幼帝幼ごころの君」に自らが即位することを思い立ちます。本当はもう一度月の子(モンデンキント)に会いたかったのですが、彼女と会えるのはたった一度きりであること、彼女がいるはずのエルフェンバイン塔はもぬけの殻で、女王は何年も不在であることが明らかになり、その望みはあきらめざるを得なかったのです。

 バスチアンは月の子に会いたい一方で、実は彼女と会うことを恐れてもいましたから、正直心の底ではほっとしたものです。なぜなら、彼女が与えてくれたお守り(アウリン)により、これまでバスチアンは自分の望みのすべてを叶えてこられたのでしたから、もし彼女がこのメダルの返還を要求し、「元の世界へ帰れ」と言われたらどうしよう・・という強い不安があったのです。

 でも彼女がいない今、不安は取り払われ自分の成すことすべてが正当化されるに至りました。傲慢と力の合体はげに恐ろしいものです。

 道を踏み外さんとした時、それを止めたのはアトレーユでした。アウリンの秘密を看破し、バスチアンを破滅から救うべく、あえて敵対の道を選んだのです。バスチアンの説得をいくら試みても聞く耳持たず‥でしたから、実力行使に出たのですね。

 即位式の直前、エルフェンバイン塔では戦闘が始まります。

 アトレーユの行動はある意味無私の、友のためのものでしたから、天も味方したのでしょう。どう考えても形勢不利だったにもかかわらず、アトレーユ側の勝利に終わります。

 すでに「独裁者」状態だったバスチアンを前に、アトレーユは迫ります。「さあ、おしるしを渡したまえ。君自身のためなんだ」と。

 でもすでに高慢ちきに膨れ上がっていたバスチアンには、アトレーユの行動が裏切としか映らずに、憎しみで一杯の心と言葉を投げつけます。

 「裏切りもの!おまえはわたしがつくってやったんだぞ!何もかも、わたしがつくったんだ!そのわたしに逆らうのか?ひざまづいて、赦しを乞うんだ!」

 「きみは何一つつくっていない。みな幼ごころの君のおかげなのだ。さあ、アウリンをよこしたまえ!」‥そう言いつつも、実力行使をためらうアトレーユに対し、バスチアンは憎しみの刃を抜きはなち、友の胸を突き刺してしまうのでした…。

 現実では、「ことばの刃」がよく使われますかな‥?

                                    Buona Fortuna!
参考・引用は前日に同じ