口語体を基本にした俳句集です。
口語体・現代仮名づかい・現代的切れ字を基本にして詠んだ句をまとめました。
2024年の年間作品集になります。
よろしければご覧になってみてください。
下記の文語体や歴史的仮名づかい・古典的切れ字を使っていないこともご確認ください。
や・かな・けり・たる・たり・なる・なり・あり・をり・ぬ・べし・にて・らむ・けむ・とや・てふ・ゐて・ゐし・し・き・等々
また口語体で俳句を詠むと俗・稚拙になるのかについても検証など行ってみてください。
*俳句でいう「口語」は現代語の文体、「文語」は平安時代の文法に基づく文体ともされています
*作品はすべて既発表句です
俳句
500句
〜2024年 作品集〜
◇ 春の部 ◇
春の富士羯鼓がひびきだすように
来る春よ蛇口を落ちるみずのおと
いちりんよ水面揺れやむうめの花
梅一輪世はこれからということか
うぐいすのこえのびのびて尊いぞ
人生をとおくながめて野にあそぶ
そよかぜよ天地吹きまぜ花すみれ
航跡は消えのこるみちかぜひかる
日に風にまかせる島よわかめ干す
かもめらよ知り得もせずに春の海
畑を打つ故郷を打つということか
早蕨か野やまが立ち上がるように
想像よ咲いてはふぶくさくらの芽
大空をひっくりかえしつばめとぶ
つばめの巣ふえゆく声を見守るか
ともす灯よ背すじをただす雛人形
かおどれもぼんぼりいろよ雛人形
ジャムナイフパンに撫でつけ春暁
おんがくよいきいき暮らす春の街
卒業かそらにおおきな伸びをして
そつぎょうの自転車かごに花束よ
はば跳びよ8メートルのさきに春
塔のどかときおり鳩を翔たせては
あゆみ出てぐるり大かげろうの街
まどに立つうしろすがたと春愁と
6階よどこからとなくしゃぼん玉
街空にきえてもとぶかしゃぼん玉
燕の巣ふたつならんでにぎわって
おやが来て喜喜叫喚のつばめの巣
生きてゆく城あるまちで春まつり
旗たててニ文字はためく〖 椿餅 〗
生きるとは後ろすがたか利休の忌
来る傘はあなたでしたか春しぐれ
空透けていちばん星かはるまつり
灯とともにさかえてゆくか都市朧
そよかぜよ空ふるわせて初ざくら
一輪よこころほころぶはつざくら
叙景詩のひとりとなって花あおぐ
さかみちよみなあゆみ入る花の雲
ちかづけば紅のうすれて山ざくら
ほそみちよ奥かくされて山がすみ
ちんもくよやがてしずかに春の滝
あらわれる彼岸ざくらの咲く村が
夜ざくらよ月とも違うほのあかり
うみからのかぜにふぶくか島花見
てのひらを波があらえばさくら貝
春の海見るおんがくということか
舞うそらよさくらに浮かぶ天守閣
いけの面よ桜のかげのありどころ
遍路杖いまいまいまを行くおとよ
あおぐたびしだれてくるか八重桜
接心よそとあかるんであさざくら
五重の塔花びらとしてふぶきだす
しめ縄か十歩はなれておおざくら
おぼろづきふるさとともす二三軒
まちのなかさくらのなかよ大阪城
交番よかたわらに舞うあさざくら
つばめ飛ぶピッコロ独奏のように
つぎつぎに飛花となりゆく一木よ
舞うさくらかぜある空をない空を
じぶんまでふぶきだしたか花見酒
はなふぶきそらいちめんよ河川敷
あしもとをさらさらながれちる桜
しろく照りあかく陰るかさくら山
夜ざくらよほのと宇宙の闇のなか
離別後よ問いかけてくるはるの月
一凛よ日ざしのおくにはつざくら
エイプリルフールコーヒー店の朝
ビルが建つ蛙鳴いても鳴いてもよ
とおぞらよ浮き雲ほどの春の富士
紋白蝶日ざしのいろということか
菓子楊枝葉かおりたってさくら餅
さくら一枝咲きはじめたか白磁壺
ショーウィンドウ街を映すか夕桜
とびかってさくらふぶきか峡谷橋
木の下よちってもちってもちる桜
住宅街夜ざくらほどのあかるさよ
いまそらを満開にしてあさざくら
列車にも舞いこむかはなふぶく駅
上京よさくらふぶきにむかえられ
ぎょうれつがゆく大通り春まつり
みつばちよあしぶらさげて羽の音
花吹雪エスカレーター地下を出て
とぶ虻よいのちぶつけて窓ガラス
まど開けてさくらのくにか西洋館
もりあがるちからづよさよ藤の花
タクシーもはなびらめくかちる桜
旅客機は大かげろうを飛び立つか
離陸機よ下はいちめんさくらどき
あかるみにみなあつまって夕花見
すこしずつ都会も老いておぼろ月
BARという文字灯りによ春の雪
パレットよ青絵の具溶く春の富士
すずめの子ちいさな毬の跳ね回る
しずかさよ池にいのちののこる雁
空じゅうが芽吹きのときか河川敷
足つけてみなふるさとのはるの川
若草よやがてみどりの北アルプス
もじゃもじゃと大きく一つ鴉の巣
春の雷野やまだんだん目覚めるか
げきりゅうを鮎のぼりゆく夕山よ
にわとりが跳び闘うぞかぜひかる
にわとりがついばむ蕊よ落つばき
スズメバチ死んでちぢまる土の上
そうぞうの庭あかあかと鶏頭蒔く
いるところどころへいわよ春の鳩
チューリップ見わたす大地七色よ
水車の水千々にきらめく遅日こそ
また来いよそらいちめんを帰る雁
立ちつくすゆうぞらいろの潮干狩
遅い日よ瀬戸に灯ともる島いくつ
まどろんでときをただよう大朝寝
朝はみなだまっていますしじみ汁
まんかいよ咲きうずもれて八重桜
ちいさな堂おおきな空よ花まつり
目ひらいて手あわすひとよ花御堂
花遍路日々をふぶくということか
蝶が飛ぶたて琴鳴りわたるように
わかめ干す島をぐるりと隠岐の海
陶芸よ手振ってはらうはるのどろ
ゆびで割るなかみどりいろ草の餅
しゃぼん玉そらいちめんの現実よ
生老病死やがてまた生しゃぼん玉
畑を打つひとのすがたも郷土史よ
たがやしてさくもつとなる土真黒
鳥雲に入るまで日ざしいしづち山
馬の鼻おおきなことよはなすみれ
つまむ手よ思いおもいに花種蒔く
ひとつぶにそうぞう力よものの種
ものの種まいては大地そうぞうか
みずからを羽にうずめてのこる雁
この村はたとえば日本タンポポよ
植生を読み解きつつよ野にあそぶ
傷つけて傷ついていま野にあそぶ
菜のはなよすえひろがりに筑波山
一列に燃えかかるのが野焼きの火
過去ほどにうつくしいのが落ち椿
灯のしたよゆめあたためる春炬燵
春炬燵ひとをおもえということか
はるゆうやけやがて灯の島星の島
ねこの子よちいさな丸になって夜
みなちがうふるさと聞くか蛙の夜
◇ 夏の部 ◇
文語派も口語派もきくふうりんよ
ひこうき雲夏の行方を見るような
ざわざわと日かげもうごく葉桜よ
ランニング朝焼けの街はずみだす
サーファーが乗った波こそ海走れ
ゆうばえよいまに真向かう海の家
広大よこころのなかもひまわり畑
かたつむり伸び行くさきが新世界
庭という庭かがやかす濡れ紫陽花
集中よパセリをちらすパスタの上
いち族が照らしあうのも手花火よ
コンビニのとなりコンビニ夏の月
伝統よいまの灯ともすなつまつり
舁ききそうおとこらのかず荒神輿
群衆のまつりうちわよひらひらと
紺ゆかたそばにすわって藍ゆかた
せとうちよまつりうちわの波模様
ひとすじよかぜ吹きぬけて風鈴祭
かきつばたかげも花咲く水のうえ
軒下よそらに見つけてつばめの子
いっぴきよときがとまった金魚鉢
じんせいのゆめのなかへと昼寝覚
騒ぐ葉よかつと掘りあて竹の子鍬
田一枚間をうつくしく植えてこそ
いちぼうよ裾をみどりに五月富士
タクシーを黒く拭きあげ梅雨間近
先頭を追う地ひびきのダービーよ
外灯もともにまたたくかみなりか
けさの空うたがいもせず五月晴れ
あじさいよ水たまりごと晴れて空
かたつむりうずまく殻の孤独さよ
山やまよ谷をただようなつがすみ
聞く人をこばむかに山ほととぎす
いまの夜におもいでの夜に蛍とぶ
一切れよ菓子の名まえも濃紫陽花
輪郭をうしなって都市梅雨入りか
さし活けるひとそのものよ花菖蒲
竹林よあしもとにまでみどりさす
背もたれていっぽんの木の大緑陰
この街よすこし見なれて土手の虹
つつまれていつともちがう大夕焼
きえるまで自分見つめて手花火よ
蛍の夜だれもさびしいひとでした
葉ざくらよかげとひざしの珈琲店
アイスティー机に琥珀いろさして
絵はがきの風車とともに夏が来る
揚羽蝶おもいたくされながらとぶ
スマートフォン社会が動く雲の峰
街が持つしずかな意志よソーダ水
革靴のつやあたらしく梅雨明けか
ビルよりもたかくあおいで噴水よ
ひとすじよながれたばねて夏の河
指の先飛べばわかれのてんとう虫
金剛峯寺そらを背後にせみしぐれ
仏塔よ透くまぶしさのせみのこえ
金魚すくい千々の赤また千々の黒
目つむってまたふるさとへ遠い夏
スケッチブック鉛筆木かげ青葉騒
海光よときにきえ入るヨットの帆
瀬戸うちの島、波、月日、大夕焼
ろうじんという少年のむぎぶえよ
こころにもかぜをとおすか衣更え
和歌集の恋にたか鳴るふうりんよ
手つければ小ながれうまれ川は夏
道のおく道あらわれてひまわり畑
ちょうじょうにきらと天守よ青嵐
野良猫のみるみる痩せて路地は夏
むこうにもせかいかがやく噴水よ
風鈴よすごみにまじるかるみの句
一閃よ句を書きとめるせみしぐれ
かき氷かきくずしてはほおばって
いっしんよこおりかち割る夏料理
黒ビール道後ゆっくり飲み干すか
市内電車まどをななめに西日さす
空高くたたずんでいるベランダよ
いちぞくよかたまって咲く鉄線花
踊子草いちにちかぜに揺れてこそ
ふるさとのあさいにおいよ夏布団
この谷もあおぐ自分もほたるの夜
すずしさよ川のながれをうけて鯉
九人よひとつすがたにボード漕ぐ
背およぎにプールの光さわぎだす
集中よそらにしずまる飛びこみ台
棒高跳びスローモーション夏の空
6階よほかにおとなくせみしぐれ
アイスティー昔話しをかきまわす
マーガレット全力で伸び晴れた空
オリンピック東京のあととおい夏
鎌倉よ鳴る踏みきりもなつのくれ
大夕焼け街とひとつにそめられて
さわぐ葉よこころで見つめ花芭蕉
ふねのかげかもめのかげよ大夕焼
ふんすいもあかあかとして夕広場
みずからをともす空港なつのくれ
なつのほし灯りたくさん帰港して
釣りびとよすわったままで大朝焼
足もとに散る木もれ日よえごの花
アロハシャツ大きな海に大きな背
にぎわってそれとさだまる夏の海
行く雲よ風いっぱいにヨットの帆
灼熱のビーチパラソルたちならぶ
ヨットの帆行くいちめんの茜こそ
半ズボンこれが地球のあるきかた
さびしさはとおのいてゆく遠雷よ
音の中癒やされてゆくシャワー室
歩み出て浜はしずかよせみしぐれ
一灯として浜あるくキャンプの夜
登山隊いっ歩いっ歩のたしかさよ
踏んで行くじぶんのかげよ登山杖
駆け上がれそらひとつある蟻地獄
ふりかぶるひげやわらかよ天牛虫
木もれ日よ消えては見えて揚羽蝶
つつまれてだれも消えゆく大夕焼
風景をうごかしつつよボート漕ぐ
生き死にの蛾をきらめかす外灯よ
とぶいのちゆらめき上る火蛾の夜
星を今見つめなおしてテントの夜
満月を捕らえもせずに蜘蛛の巣よ
消灯よ大地とねむるキャンプの夜
◇ 秋の部 ◇
あさぞらよ季節がかわる赤とんぼ
あさごとにそらとおのいて八月か
うらがえりうらがえるそら桐一葉
コーヒー店外にまで灯よ秋のあめ
飛び立って鳩もどりくるあきの空
もくとうよとどけつづける原爆忌
もくとうのまた合掌のはちがつよ
のぼりざかうしろかぜ吹く立秋か
新幹線おもくはしるかぼんやすみ
われわれにこそある未練門火焚く
ばらばらにつらなる列よ墓まいり
この世によひとつあかるく盆の月
じぶんこそじぶんを知らず盆月夜
つづけざまななえにやえに大花火
いつか又出かけましょうか遠花火
まんてんよいくすじとなく流れ星
うちゅうの間感じながらよ流星群
あおぎ見た夜々がひとすじ天の川
伝統がすすみ行きます阿波おどり
もくとうよそのしずかさの終戦日
人心をしずめつづけてひぐらしよ
つえついてかぜよりしろく秋遍路
じんせいの歩み止めれば赤とんぼ
あきの島きらめく波のこまやかよ
巻貝よしろをひろえばあきのかぜ
すすきみなはるかをさして一本道
すずめきて深くしならす草の穂よ
天と地よまだまだわたるわたり鳥
草出ては大ゆうばえをばったとぶ
まいとしよちいさくあがる島花火
新聞をわかるまで読む夜ながさよ
いえごとの灯にものがたり天の川
わたりどりむかえる高層ビル群が
皿あらうひとすじの水さわやかよ
日の枝よすこししなって小鳥来る
神輿来る風のたかさをあきまつり
おみくじの結び目からよ秋のこえ
手をつけて川のながれのなかよ秋
あかとんぼしんと川瀬の石のうえ
日輪月輪すすきの穂絮映えてとぶ
草のわたひかりの玉となってとぶ
沿いあるくなみうちぎわも秋麗よ
うずもれてまっさおな壜あきの浜
風に乗る時それぞれよくさのわた
野良猫のふりむきがおよ露の路地
飛ぶからす羽を上下にあきのくれ
もみじ照る島からしまへ瀬戸大橋
じぶんいま秋ゆうやけか島かげか
まんげつよ大橋のかげうみのうえ
往来船──灯台──港──流れ星
駐車場夜のすみにきくこおろぎよ
ひとすじににごるれきしよ天の川
天の川こころそのものではないか
まいとしよ真あたらしくて望の月
名月よ野わけてはしるかぜのおと
寺のかげうつくしいのも十五夜か
ゆく犬の腹まで濡らす野のつゆが
いちまいに静まってより澄む水よ
曼珠沙華みずたまりにも曼珠沙華
そえる手よ田ごと田ごとの稲の花
ふるさとがふるくなるたび柿実れ
てっぺんの実ついに落ちず柿の秋
金閣よきんいくすじもあきのあめ
銀閣をうつすみなもよあきのあめ
剥き終えてすでにしたたる梨の玉
踏みあるくひとすじの間よ竹の春
鯊釣りのぴちぴちぴちと夕暮れか
船行くかあかい夕陽をあきのくれ
ちんもくよこどくかりりと落花生
じんるいとむきあう月の淋しさよ
あまのがわこころの奥で渦巻くか
流星ようちゅうの歴史またたく間
ともに寝る銀河あかりの山やまと
三千世界葉さきにひかるつゆの玉
にじいろよ爪はじくときつゆの玉
わきあがりながれおちては山霧よ
おくにこそ一糸けぶってあきの滝
いのししのあとうり坊も山ゆくか
木のしたよなんなくひろう鬼胡桃
はなすすきたびのゆくえは広大か
いちりんよちいさいながら菊日和
白菊よそばにすわればおおひなた
こぐ舟のなかにかつ散る紅葉こそ
雁の列かたちをもたずゆうぞらよ
啄木鳥のつつき尽くした日暮こそ
白菊よ葉にかげおとすゆうひなた
せいようにとうように鐘秋のくれ
混ざりだすそらよじかんよ秋夕焼
ゆうやみよ色濃くならぶ稲架の列
フライパンカンとたたいて豊の秋
ひとふさよまるいひかりの黒葡萄
馬鈴薯が丸ごといくつシチュー皿
はつこいよ咲きのぼるのは鳳仙花
ジャングルジムを縦横無尽秋の風
ちかく鳴くすがたは見えず鵙の贄
絮とんで蘆であることわすれるな
寺の木よときおり熟柿落ちるおと
せんねんをにせんねんをよ雁の旅
いちまいの秋ぞらとして鳶舞うか
すずめ跳ぶたがいちがいに大刈田
収穫よ葉かげ葉かげのあきなすび
せんそうよつぶらにみのる茨の実
いぬのかげ飼いぬしのかげ秋夕焼
望郷よまた見うしなうあかとんぼ
あかとんぼつんととまるか大夕日
引くたびに波打ちぎわの秋澄むか
鰡跳んで斑のゆらゆらと岸釣りよ
あきのあめついに港の灯をともす
さびしさようずを巻きこむ大台風
灯の列車だんだん霧にとけ入るか
灯のいえよ谷のそこにも虫しぐれ
じんせいの名残の月ということか
あかるさよついにひとりの十三夜
かお上げてのけぞるまでよ天の川
暮れるたび星ともるたび秋惜しむ
異国の灯霧のじだいのふかまるか
草さきよとうめいいろのつゆの玉
ばらばらのすすきの穂さき日の光
さいげつと遊んで風のコスモスよ
河としてまた雲として行くあきか
みずたまりひとりでに澄む秋日和
たいりんにたいりんならぶ菊手入
いちぞくのすえのこどくよ落花生
じぶんに目おもくつむって晩秋か
航跡よよこぎりあってあきのくれ
わくように都市の灯るか秋のくれ
せまりくる夜のしずけさよ残る虫
だまるほどおおきい月を旅に見た
秋惜しむ熱盛りそばをすすっては
まんなかに淵ひとすじよあまの河
くらやみよ少してらして夜学の灯
◇ 冬の部 ◇
白鳥よ日の揺れうつるみずのうえ
いちまいのそらどの家も布団干す
げきどうの時代ときおりふゆの虹
そのあしであるいてゆくか七五三
いっせいよ鳩もかけだす初しぐれ
茶をたてて直の背すじよ冬つばき
あさは掃きひるは焚きあげ神無月
鯛焼屋どこにでもあるめでたさよ
とおくなる日ごとに冬の夕焼けが
いちにちを掃きあつめてよ落葉焚
雪嶺がそらにうかんでいることよ
まっしろなせかいにこえよ雪合戦
子らやがて日本つくるか雪だるま
抱きついてたましい入れる雪達磨
詩のなかに住んでいるかに雪国よ
スキーヤー銀嶺の風、風、風、風
重力のどれもみごとよつらら折る
生ききれず死にきれず手に冬胡桃
幸せをこそおもいだす日なたぼこ
つき過ぎずはなれ過ぎずよ浮寝鳥
地も天もうごいているか冬ぎんが
一歩出てみさきのそらよ鷹が飛ぶ
水仙よどれを剪ってもかぜのおと
おどろいて水さわぎだす浮き寝鳥
来てまるでこころのなかよ大枯野
寒つばきひと花ごとに散りごころ
鬼がわら目をみひらいて霜の屋根
木がらしよ身ひくくはしる人力車
木みあげていろさまざまよ冬紅葉
学院にいのりのじかん木の葉降る
いちまいのそらごとふゆの空港か
あかい大阪あおい東京ふゆの灯よ
降るあめよ暮れていちにち浮寝鳥
マスクしてあたたまりだす胸の奥
風邪ぐすりおおきくうごくのど仏
京というふる雪というしずかさよ
丸眼鏡ホットレモンにくもらせて
このさきもせんそうへいわ粉雪よ
町おこししてもしてもよ雪が降る
ゆきだるましろじろと見え夜の奥
熱燗よことばなくてもあたたまり
去るひとは風とともによおでん酒
巻く風が家ゆさぶってこたつの夜
鳴きだしてふくろうという夜の山
せんぼんのつららしずかに凍滝よ
はたらいてよい日があたる蜜柑山
手ばかりがいきいきうごく冬耕よ
このさきはかもめのそらよ冬の崖
冬木道こころのなかにつづくとは
舞い舞ってときをこえるか里神楽
かえりみちはるばる日なた年の市
あるく身にあっとうてきよ初寒波
交番よ灯ひとつともるとしのくれ
あおぎ見てはてに何ある聖樹の灯
いきいきとれきしの果ての聖夜劇
ねむる子にときながれだす風邪薬
明けがたよ僧たちの大すすはらい
空ひろく仕事おさめということか
湯豆腐よ二人には間があるばかり
手かかげて姿またたくオリオン座
数え日よ晴れ雨曇り晴れ晴れ晴れ
寒菊のかすかにかおる日なたこそ
やおよろずの神々の土地注連飾る
来る年をあきらかにしてこよみ売
めくる手よ文字目を覚ます古日記
かおあげて天にものぼる日向ぼこ
いちねんがここにおちつく落葉焚
早ばやと年過ぎて行くくやしさよ
撞く僧よ間をたっぷりと除夜の鐘
初しののめ 初明り いま初日の出
初鳩か──あおぐ人らは空のした
とおぞらよへいわのように正月凧
弾き初めようえへしたへと琴の爪
ずっしりとおもく初星出そろって
はつゆめよ霧散するかにけさの空
寒紅梅おもいのたけが咲き出たか
よろこびを知る人たちよ若菜摘む
わたしもかかたいつぼみの福寿草
てんねんのしおひとつまみ七草粥
撒きまいてしおの花咲く正月場所
もち伸びていつまでとなくお正月
つぎつぎに家掻きだされ今朝の雪
я все ще живий葉書にも冬日さす
転職よ身にきたかぜとたいようと
自分との対話とホットコーヒーと
日あたって鳥居しめなわふゆの滝
凍て鶴に星がまたたきはじめたか
おおきさよいやちいささよ冬銀河
航海よ──夕映えの空──冬銀河
おおくじらおよいでゆくか幾千年
太平洋かげおとしてはイルカとぶ
岩にいてまた波にいてふゆかもめ
じんせいよときはながれて冬の虹
にんげんがまっさきに暮れ浜焚火
船団の千々の灯が来るふぶきの夜
顔沈めふかふか巻きのマフラーよ
花束よつぼみもやがてふゆの薔薇
冬すみれあさっての方向いて咲く
背負い投げ背負い投げられ寒稽古
いっぽんの松迫りくる絵ぶすまよ
いちりんよ小さい名札【 寒紅梅 】
梅いちりんさむい心によりそって
寒すずめ日のさす土をついばむか
にわひとつかおりのなかよ水仙花
あかん坊つかまり立ちで春を待つ
日向ぼこ家郷お変わりないですか
枕もとの灯りをけしてふゆ終わる
跳びとんでかるいすずめよ雪の上
いつも
ご覧いただき
ありがとうございます
句集内作品
改訂日
2024年
11月06日
*作品は主にnoteに投稿したものです
*2023年年末に詠んだ作品も一部まじっています
*俳句については個人・団体によって様々な考え方や見解があります
