1章 差出人不明の手紙
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「だーかーらー、わかるわけなくない?差出人不明のハガキが誰から来てるかなんて」
集まる人はまばらながらも、中学卒業から不定期に続けてきた同窓会で、フィルターギリギリまで吸ったタバコを灰皿に押し付けながら海月(みつき)は紘人(ひろと)に言う。
ゴールデンウィークも終わった変な週末に帰ってきてしまったものだから、同窓会にいるのは地元で働くメンバーがほとんどだ。
「そんなこともないと思うけどなぁ。意外とわかるもんだよ。消印とか切手の種類とかさ、常連さんだったら案外俺らみたいなやつが覚えてるかもしれないし。」
苛立つ海月を横目に、地元就職組の1人、紘人が呑気な顔で言う。そりゃ紘人のとこみたいなら、と言いかけて海月は言葉を飲み込む。
実際、同じ郵便局の仕事をしているとは言え、紘人と海月が扱う仕事の規模はかなり違う。
地元から少し離れた地方都市で郵便局のコールセンターに勤める海月は、毎日、全国各地から来る郵便物に関する問い合わせの電話に追われている。
北海道からの電話が終わったと思ったら、その5分後には沖縄の離島からの問い合わせ、なんてことも日常茶飯事だ。
差出人の特定も、そんなよくある日常の些細な問い合わせのひとつだった。
対して、地元の小さな郵便局の配達員として働く紘人は、毎日同じようなコースを淡々と回るし、紘人の言う通り常連のような人だっている。
給料にそれほど差はないし、海月もどちらが偉いなんて考えたことはなかったが、なんだかさっきの言葉を飲み込まないと自分の故郷を無碍にしているような気がして、海月はそれ以上何も言えなくなってしまった。
「おーい、悪かったって!都会のキラキラOLさんは大変でんなぁ。ほら、一本やるから機嫌直せって」
紘人はそう言って、海月が吸わないと分かっているレギュラーのタバコを押し付けながら、調子よく笑う。こいつは昔からそうだ、と言いたいところだが海月と紘人は中学時代はそこまで仲がいいわけでもなかった。仲良くなったのはお互い喫煙者になってから、ここ1年くらいのことだ。それでも、紘人の詮索してこない適当さとこういう調子の良さが心地よくて、地元に帰ると何かと一緒に遊ぶような仲になっていた。
「大じょ……」
「海月はそろそろ新しい彼氏できたー?あんないい元彼フってからもう1年でしょ、そろそろ作りなよ〜」
大丈夫、と言いかけたところで、勢いよく話しかけてきた真帆(まほ)の声に遮られる。
「海月は無理だよー、だってMBTIあれだもん、あれ」
響子(きょうこ)が代わりに答える。
「え、ガチ?確かに“ポイ“わー。まあ海月は1人でも大丈夫か笑」
海月の知らないところで、何やら知らない論が展開されて話が終わっていく。
「そういや、この前あやとたち結婚したの知ってる?」
「まじか、全然知らなかった」
「やばい、ガチどんどんみんな結婚、出産」
中身のない会話。
言葉の半分は「ガチ」と「やば」で構成される、若者代表のような会話だ。
さすが田舎の小さな町なだけあって、会話の種は常に誰かのゴシップで満たされ、暇しない。
ただ、海月はこの2人との会話が嫌いではなかった。
互いに親友、と言い合う訳でもなければ、頻繁に連絡を取り合う訳でもない。
それでもこんな何の休みでもないような日に誘っても飲みに付き合ってくれて、
知ってか知らずか、気まずい瞬間には必ずどちらかが能天気に話を振ってくれる。
今だって、さっきまで少し遠くで名前もあやふやな同級生たちと盛り上がっていたのに、気付いたら近くにいて、話が逸れた。
「ほんと、タイミングいいよね、君ら」
そうやって独り言のように微笑みながら呟くと、真帆と響子は誰よりも大きな目立つ声で笑った。
それを見て、海月も思わず大きな笑い声が出る。
中学の時からかれこれ10年、私たち3人はずっとこんな調子で過ごしてきた。
だから彼女たちも知らない。あの日のことは。