たか○○○○○ | 町に出ず、書を読もう。

町に出ず、書を読もう。

物語がないと生きていけない。社会生活不適合者街道まっしぐら人間の自己満足読書日記です。

「うーん……うーん……むむむ……」



「どうした?大あくびしたら口に蛾が入ってきてびっくりして口を閉じたような顔をして」



「…」



「どうした?本当に調子悪いの?」



「蛾のくだりで崩してもない体調が悪化した気がするわ」



「ああ、ごめん。蛾とか苦手なタイプ?むにゅっとしてましたとかうわごとのようにいうタイプ?」



「いや、そんなニッチなタイプではないんだけど・・・」



「そうか。そいつは重畳だね」



「……まあいいや。ただ、脳内に顔は出てるけど名前が出てこない有名人がいるだけなんだけどね」



「ほう、思い出そうとしてるのに思い出せないというわけだね。だから今の顔みたいに、例えるなら大あくびしたら…」



「いや、もう蛾の話はいいから。『そんな汚いものいらんわい』とでも言って欲しいの?」



「おっ、話せるねぇ」



「いや本当にいらんから。うー、顔は完全に出てるし、なんならその人のモノマネをしている芸人の姿さえ浮かぶんだけど名前が思い出せない…」



「それは確かに気持ち悪いだろうねぇ。とはいえそんな少ない情報だけではこっちとしても協力しようがないなぁ」



「あ、プリプリの『ダイアモンド』」



「ん?急にどうした?」



「いや、何かその有名人の名前を思い出そうとしたらプリンセスプリンセスの『ダイアモンド』が脳裏によぎった」



「何でまたそんな懐かしい曲が?」



「何でだろ。よく分からないけど、何か自分の中で関連のある記憶があってそれで思い出したのかも」



「ほうほう。その有名人を思い出すヒントになっているというわけだな」



「記憶が繋がってないから確実にそうだとは言えないけど、そうかもしれない」



「よし、それならいっちょ、僕が歌ってあげようじゃないか。それで思い出すかもしれないし」



「そうしてくれるとありがたい。是非お願いするよ」



「了解した。今から歌うから、何か思い出したら教えてくれよ」



「わかった」



「じゃあいくよ。『♪たーん、たらららーんらーんらーんらーんらーん』」



「前奏から行くの?」



「だってどこがヒントになってるか分からないし…」



「前奏は多分関係ない。歌詞にヒントがあるような気がする」



「そうか、なら前奏は省略しよう。『♪つめたーいいーずみに すあしーをひーたしてー』」



「あ、そういえば」



「おっ、どうした?」



「この曲が流行ってた時、何故だか知らないけど、『冷たい泉に鼻毛を浸して』っていう替え歌がクラスの一部で流行ってた気がする。今になって思えば、腹這いで泉に鼻毛を浸してたのか、鼻毛神拳継承者ばりに鼻毛が発達していたのかどっちなんだろうな」



「ん?それ今思い出そうとしている有名人と何か関係あるの?」



「無いよ。今ふと思い出しただけ」



「……(シュッ)」



「ちょ、あぶないな。何で貫手で鼻と上唇の間を的確に撃ち抜こうとしてるの?人体急所だよ、そこ」



「せっかく協力してやってるんだから、脇道に逸れるなっての」



「ごめんごめん。じゃあ、続きお願い」



「全く……『♪みーあげるーすかいすくれーいーぱー すきなことを』」



「うーん、その辺じゃないっぽいなぁ。サビ付近まで飛ばしてくれていいよ」



「全く注文が多いな…。『♪ねむたくっても きらわれっても としをとっても やめらーれーなーいー』」



「♪なーいなーいなーいなーいなーいー」



「いやエコーとかいらないから。とっとと思い出せよ」



「そんなこと言われても、まだ該当部分に達してないんだから思い出せるわけないよ。ハイ、次行って、次」



「……『♪だいあもんどだねー ああ』」



「♪ああ」



「…(シュッ)」



「ちょっ、また同じ急所を!?何だよそれ」



「人中だよ」



「いや、急所の名前聞いてるんじゃなくてね」



「だから合いの手とか要らないから。思い出す気が無いんならやめるよ?」



「違う違う。つい条件反射みたいな感じで口走ってしまうだけなんだって。ごめん、我慢するようにするから。もう少しで思い出せそうな気がするんだよ」



「ふぅ…。じゃあ続きな。『♪いくつかーのーばーめーんー ああ』」



「♪ああ」



「チッ(舌打ち)」



「あ、ごめん…」



「………『♪うまくいえなーいーけーれーど たからものだよ』」



「たからものだよ・・・、たからものだよ・・・、たか・・・・・・あっ!!」



「おっ、思い出したか?」



「思い出したよ!たかだのぶひこ!高田延彦だよ!やっと思い出せた!ありがとう!!」



「うわー、そうなるとは思ってたけど、お前の味わってるカタルシスが全然伝わってこないわー。温度差半端ないわー」



(おわり)





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この記事の試み



「『たからものだよ』と『たかだのぶひこ』はちょっと似てる」、という


1行で済ませられる内容をめいっぱい膨らませて、会話劇風に仕立て上げてみる。






この記事の誤算



書き終えて読み返してみると、


会話をしている2人よりも、


書き手と読み手の間のほうが温度差激しそう、という事実。