70.「天平グレート・ジャーニー」上野誠 | 町に出ず、書を読もう。

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物語がないと生きていけない。社会生活不適合者街道まっしぐら人間の自己満足読書日記です。

70冊目

「天平グレート・ジャーニー  遣唐使・平群広成の数奇な冒険」

上野誠

講談社




天平グレート・ジャーニー─遣唐使・平群広成の数奇な冒険/講談社
¥2,625
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天平五年(七三三)の遣唐使は数ある遣唐使のなかでも数奇な運命をたどったことで知られる。


行きは東シナ海で嵐に遭い、四隻すべてがなんとか蘇州に到着できたものの、全員が長安入りすることはかなわなかった。


それでも玄宗皇帝には拝謁でき、多くの人士を唐から招聘することにも成功、留学していた学生や僧も帰国の途についた。


しかし…。第一船だけが種子島に漂着、第二船は広州まで流し戻されて帰国は延期、第四船に至ってはその消息は今日まで杳として知れない。


そして第三船。


この船は南方は崑崙(いまのベトナム)にまで流され、百十五人いた乗員は現地人の襲撃や風土病でほとんどが死亡、生き残ったのは四人だけだったと史書にある。


そのひとりが本書の主人公、判官の平群広成である。


広成たちはたいへんな苦労の末に長安に戻り、さらに北方は渤海国を経て帰国。そのとき広成はなぜか天下の名香「全浅香」を携えていたという。


若き遣唐使の目に世界はどう映じたのか?


ふたたび日本の土を踏むまでに何があったのか?


阿倍仲麻呂、吉備真備、山上憶良、聖武天皇らオールスターキャストで描く学芸エンターテインメント。




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結構日本史ものが好きなワタクシですが、守備範囲はもっぱら戦国か幕末なのですよ。




まあ、その辺の時代の作品が多いからというのもありますが、そういう風に表現するとミーハー感が増してちょっと嫌な感じですねぇ。




とかいいつつ、やはし読んでしまうんですけども。




で、そんな私が奈良時代ものものを、しかもハードカバーでなぜ買ったのかと言いますと。




この著者の方は、今回初の小説執筆をされた、某大学の教授センセイなのですよ。




そして、その教授センセイが助教授だったころ(准教授じゃないところに時代を感じる・・・)に、ワタクシも少々面識がありましてね。




と言っても学科は違うし、向こうは間違いなく私のことなど覚えてないだろうな、程度の面識なんですが。




でも、そんなセンセイの処女小説を本屋で見つけてしまったら、買ってしまいますよねぇ。




あれ? そんなことない? でも私はそうだったのです。


「うおおお、小説書いたの?上野先生」




なんて思って、ハードカバーだったため逡巡してその日は購入しなかったんですが、後日結局買ってしまいました。




2000円あればおつりがくるだろうと値段を見ずに買ったら2625円もしてびっくりしましたが。




古代の国文学が専門の上野先生なので、どうしても和歌の解説をしているイメージが強く、小説となるとかなり未知数な部分があって、大枚はたいた割に内容には若干不安があったのですが、結論から言うととても面白かったです。




当時の文献から航海や朝貢の様子を生き生きと描き、その行間に架空のストーリーを交えて物語としてかなり上質のものとなっていました。




唐に行くだけでも当時の日本人からすれば極々少数の選ばれた人にしかできないことなのに、帰りの船が漂流してベトナムまで漂着し、そこから唐に戻って渤海経由で帰国なんて、話を聞く側にとってはとても胸躍る冒険談だったんだろうなぁ、などと思いながら奈良時代に思いを馳せてしまいます。




専門家の上野先生らしく、物語の端々には人々が綴った和歌も登場し、当時の雰囲気をさらに深く味わえるところもよかったです。




史実をベースにしているので、例えば「平群広成」でウィキペディアを調べれば筋がほぼ分かってしまうほどの、言葉は悪いですが「地味」な物語ではあるのですが、奇をてらわずに書き切ったところがところが逆に良い印象でした。




興味のある人は、読んでみてもいいのではないかなと思います。




聖武天皇はともかく、阿倍仲麻呂・吉備真備・山上憶良というメンバーを『オールキャストメンバー』だと思える方ならば、結構楽しんで読めるのではないかと思います。




・・・・しかし、私の出身校が丸わかりになるな、コレ。




まあ、別にいいですけど。