39.「鍵のない夢を見る」辻村深月 | 町に出ず、書を読もう。

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物語がないと生きていけない。社会生活不適合者街道まっしぐら人間の自己満足読書日記です。

39冊目

「鍵のない夢を見る」

辻村深月

文藝春秋



鍵のない夢を見る/文藝春秋
¥1,470
Amazon.co.jp

どうしてだろう、と歯を食いしばる。


どうしてだろう。


私には、どうしてこんなものしか、


こんな男しか寄ってこないのだろう。


―――「石蕗南地区の放火」より





望むことは、罪ですか?


彼氏が欲しい、結婚したい、ママになりたい、普通に幸せになりたい。


そんな願いが転落を呼び込む。


ささやかな夢を叶える鍵を求めて5人の女は岐路に立たされる。


待望の最新短篇集。



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遅ればせながら、辻村さんの直木賞受賞作品のご紹介でござります。




収録作品は、


「仁志野町の泥棒」

「石蕗南地区の放火」

「美弥谷団地の逃亡者」

「芹葉大学の夢と殺人」

「君本家の誘拐」


の5つ。



物語としては一切繋がっていないこの5つの話ですが、共通することはひとつ。




一人称を担う女性たちが、幸せを追い求めていること。




そしてその幸せが、世間一般から見ても、決して分不相応ではないことです。




ありきたりで、平凡で、面白味も外連味も一切ない、願い。




誰にでも訪れる程度のささやかな幸せを、得ることのできない自分。




どうして。どうして私にだけその幸せはやってこないのか。




幸せの扉を開けるのには、鍵が必要なのだろうか。




だとしたら、その鍵はどこにあって、どのような手段で入手すればいいのか。




焦りを覚える彼女たちは、扉が施錠されているかも確認せずに、鍵を探し続けます。




そもそも、扉があるかどうかも分からないのに。




扉があると思っている方向が、正しいとも限らないのに。




その結果もたらされるのは、新聞の地方欄の片隅にあるような小さな事件。




あるいは、地方紙にすら載らないような、小さな小さな非日常。




相手が悪い。周囲が悪い。環境が悪い。タイミングが悪い・・・・




それとも悪いのは、私なのか?




どこにでもあって、どこにもない。そんな5つのものがたり。







・・・・内容説明をしているつもりが、抽象的かつ散文的すぎて自分でも取集つけられなくなりましたよ、っと。




でも長々と書いてしまって消すのも勿体ないからこのままいきますよ、っと。




まあ、ものすごくざっくりというと、願いが強すぎてちょっとオカシくなってる女性たちの物語なんですよ。




読み始めた時は「こんな奴いねぇよ」とか「そんなことしねぇよ」とか思うんですが、ディティールを書き込まれるにつれ、感情移入とはちょっと違うものの、この女性たちの気持ちが分からなくもなくなってくるんですよね。




ワタクシは一応男なので細かいニュアンスまで理解できてるとは到底言えませんけど、女性だったらもっと理解できるのかもしれません。




面白い作品でした。




個人的には、「芹葉大学の夢と殺人」が、いろんな意味で一番イタくて面白かったです。




で、普通のレビューならここで終わるんですが、直木賞ですよ、問題は。




直木賞ってのは、作品そのものに与えるというよりは、これまでの作品を踏まえて人物に与える側面が強いんですよね。




でも、あんまりそういうのって知られてないし、「受賞作」ってなるとやっぱり「代表作」になってしまうじゃないですか、どうしても。




でもこの作品はいい小説ではあるものの、他の小説と比べて、「辻村深月の他の作品も読んでみよう」と思わせる間口がそう広くない小説だと思うんですよね。




だから、老婆心ながらも、これだけは言っておきたい。




この作品だけで判断しないでください、と。




初期の作品(具体的に言うと「冷たい校舎の時は止まる」から「名前探しの放課後」あたりまで)にも目を通して頂きたい、と!




・・・っていうファンの遠吠えですけど何か?