61-63冊目
「マルドゥック・ヴェロシティ」(全3巻)
冲方丁
ハヤカワ文庫
覚醒剤中毒による友軍への爆撃という罪を犯した優秀な軍人、ディムズデイル・ボイルド。
マスコミからの隠蔽のため軍研究所に収容された彼は、そこで開発されたばかりの万能ネズミ型兵器ウフコックと出会う。
失われたキャリアを取り戻すべく、麻薬中毒を克服し、重力を自在に操る力を得るとともに自己を回復してゆくボイルド。
だが戦争は終結し、技術を危険視された軍研究所とその成果は廃棄が決定。
全てを葬り去るべく、実行部隊が研究所に迫る。
辛くも襲撃を逃れたボイルドたちは、自らの「有用性」を示すため、悪徳の街・マルドゥックシティへと向かう。
そこに待ち受ける運命とは…
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前作「マルドゥック・スクランブル」の前日譚であり、「スクランブル」でバロットとウフコックの前に立ちはだかる強敵・ボイルドが今作の主役です。
ボイルドとウフコックが、まだ相棒だった頃の話。
つまり、「スクランブル」で敵対してるということは、おそらくこの物語で決別するんだろう、と推測できてしまいます。
それだけでも辛そうな話だなと思うのですが、さらにもうひとつ。
研究所からマルドゥックシティへ行き、「チーム09」を立ち上げたメンバーは10人と2匹なんですが、「スクランブル」の時には1人と1匹しかいないんです。
しかも、現在は敵対しているボイルド以外の8人と1匹は、物語に登場すらしていません。
ということは、そういうことなんだろうか。
嫌な予感と暗澹とした気分に包まれながらも、スピード感のある文体に引き摺られるように、ぐいぐいと読み進めてしまいました。
面白い。すごく面白い。
けれど、どうしようもなく悲しい話でした。
「スクランブル」において、バロットという新たな相棒を見つけたウフコックに、ボイルドは何度も語りかけていました。
『俺のもとに戻れ』と。
「スクランブル」を読んでいる時には、とても冷酷に、便利な武器としてのウフコックを欲していたようにしか見えなかったのですが、決して、そうではなかった。
言動に表れてないだけで、内心では狂おしいほどにウフコックを必要としていたのだ、ということが分かりました。
「ヴェロシティ」を読んだ今、改めて「スクランブル」を読んだら、一度目とは全く違うボイルドに出会えるのかもしれません。
…うーん、そんなことを言っていると、「スクランブル」を強烈に再読したくなってきた!
ああ、でも、積読が、積読が……