24.「本日は大安なり」辻村深月 | 町に出ず、書を読もう。

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物語がないと生きていけない。社会生活不適合者街道まっしぐら人間の自己満足読書日記です。

24冊目
「本日は大安なり」
辻村深月
角川書店




舞台は、地元結婚情報誌で毎回トップ人気の結婚式場「ホテル・アールマティ」。



日時は11月22日。いい夫婦の日。
曜日は日曜。
そして、大安。



そんな佳き日に、4組の結婚式が執り行われる。



4つの結婚式には4つの不穏な空気が漂う。



一世一代のたくらみを胸に秘める美人双子姉妹。


クレーマー新婦に振り回されっぱなしのウェディングプランナー。


大好きな叔母の結婚にフクザツな心境の男子小学生。


誰にも言えない重大な秘密を抱えたまま当日を迎えてしまった新郎。



それぞれの思惑と事情が臨界点に達したそのとき――



世界一幸せな1日を舞台にした、パニック・エンターテインメント長編の大傑作。



結婚式は、人生最大のエンターテインメント!




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辻村さんと言えば、暗いテーマ重いテーマというイメージがなんとなくあるのですが、今作は結構陽性の話です。



正直言うと、「パニック・エンターテインメントって、あんまり得意分野ではないんじゃないかなー。冒険するのはいいけど、作品のクオリティが落ちなきゃいいけどなー」などと思っていたのですが、詳しくは後述しますが全くの杞憂でした。



こういう『一人称が次々に切り替わっていきつつ物語が進行して、最後にはひとつにまとまって大円団』というような作品と言えば、伊坂幸太郎さんがどうしても思い浮かんでしまい、伊坂作品のようにスピーディーでテンポ良く視点が切り替わる小説をイメージしながら読み始めていたのですが、これがまた全然違う。



回想シーンが多いせいもあるのでしょうが、結婚式当日の様子にはあまりスピード感がなく、視点の移り変わりもさほど頻繁ではありません。



しかしその分、ひとりひとりの心の内側がしっかりと描かれていたので、物語にぐいぐいと引き込まれていきました。



同じような趣向の物語ですが、伊坂作品が「動」とすれば、この作品は「静」という感じでしょうか。



中盤から終盤にかけては、静かな展開ながらも徐々に緊迫感が増していき、ついには起こってはならないことが・・・。



いやー、流石です。
最初の心配なんてどこ吹く風。しっかりと堪能させていただきました。



あと、辻村作品といえば、他作品とのリンクを探すと言う楽しみもありますよね。



まずひとつめは、舞台となった「ホテル・アールマティ」。
確か「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」だったと思うのですが、物語と直接関係はないものの、地元女性が憧れる結婚式場だと語られていました。



ふたつめは、とある登場人物が通っていた高校の名前、「礼華女子高」。
これは「名前探しの放課後」で椿が通っていた高校ですね。



そして何といってもみっつめ。
「子どもたちは夜と遊ぶ」の登場人物が再登場して、結構重要な役割を担っているのです。
しかもふたりも。



ふたりとも好きな登場人物だったので、とても嬉しかったです。



とまあ、私が気付いたのはこのみっつでした。



「他にも見つけたよ」というかたは、是非教えてください。



元々の辻村ファンはもちろんのこと、辻村作品未経験のかたにも胸を張ってオススメできる作品です。



たまたまですが、今は6月。ジューンブライドの季節ですし、結婚式をテーマにしたこの小説を読んでみてはいかがでしょうか。