9.「ふたりの距離の概算」米澤穂信 | 町に出ず、書を読もう。

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物語がないと生きていけない。社会生活不適合者街道まっしぐら人間の自己満足読書日記です。

9冊目
「ふたりの距離の概算」
米澤穂信
角川書店




2年生に進級した折木たちの所属する古典部に、1人の仮入部員が入ってきた。

折木と千反田の楽しげな会話を聞いて仮入部を決めたという1年生の女子生徒・大日向は、伊原や福部とも打ち解け、このまま正式に入部するものだと思われた。

しかし、大日向は入部しないという意思を示す。

しかも、どうやら千反田の言動が原因であると言うのだ。

「あいつな誰かを傷つけるなんて、信じない」

折木は、マラソン大会を利用して聞き込みと推理を始めるのだが…




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古典部シリーズ最新作です。



本の冊数で数えると5冊目になるのかな、多分。



千反田のことを恐れて入部しなかった大日向は、きっと何かを誤解している。



そう信じる折木は、大日向が何を誤解しているのか、その誤解を解くには大日向にどのように伝えればいいのか、を考える。



答えを見つけるために、折木はゆっくりと走り始める。



生徒数が多いため、3年1組、3年2組、3年3組…と時間差でスタートするこのマラソン大会を利用して、折木は足りない情報をも収集していく。



まずは総務委員として走り回る福部。
次に後ろから走ってくる伊原、千反田。



その3人からの情報を元に、最後に控えるは大日向。



マラソン大会の最中なので長話はできない。



有益な情報を得るために的確な質問をすべく思考を巡らせながら、後方から迫ってくる「関係者」との距離を概算し、



同時に、その情報をもとに大きく離れてしまった千反田と大日向との認識の差をも概算する。



というダブルミーニングなタイトルが巧いですね。



しかも読者側からすると、折木がシリーズを重ねるにつれてどんどん千反田に惹かれていってる様子までもが概算されて、トリプルミーニングにもなっているという。



もうタイトルだけでごちそうさまな感じです。





内容はもうさすがの米澤クオリティ。
緻密で、繊細で、でもいい感じに砕けててサクサク読めました。



まあこの作品は雑誌で読んでたので、単行本ではある意味再読。



だから伏線を探しながらゆったり読めました。



それよりなにより嬉しかったのが、折木たちが2年生に進級したこと。



これからシリーズが何作出るかは分かりませんが、高校卒業まで書いていただけるんではないかと期待が膨らみました。



それと、大日向の抱えている「問題」も気になります。



自らの交遊範囲がほとんど校内だけで収まってしまう高校生にはちょっとハードルの高い「問題」だとは思うんですが、折木たちが協力して解決する姿は是非見てみたい。



何にせよ、次の作品は結構ターニングポイントになりそうな気がするんですが、どうなるんでしょうか。



期待して待ちたいと思います。