3冊目
「プールの底に眠る」
白河三兎
講談社ノベルズ
夏の終わり、僕は裏山で「セミ」に出逢った。
木の上で首にロープを巻き、自殺しようとしていた少女。
彼女は、それでもとても美しかった。
陽炎のように儚い一週間の中で、僕は彼女に恋をする。
あれから十三年…
僕は彼女の思い出をたどっている。
「殺人」の罪を背負い、留置場の中で――。
誰もが持つ、切なくも愛おしい記憶が鮮やかに蘇る。
第42回メフィスト賞受賞作。
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帯に「辻村深月、絶賛」と書いてあったので読んでみました。
蝉の声が響く裏山で、自殺をやめてしがみつくように木から降りてきた少女に『名前をつけて』と言われ、咄嗟に少年が名付けた「セミ」という名は、一週間後の別れが必然だと暗示するようで。
眠れない時によくイルカのことを考える、という少年に「セミ」が名付けた「イルカ」という名は、偶然にも少年の内面を的確にあらわしていて。
長い期間を土中で過ごし、ようやく地上に出てきた「セミ」と、脳を片方ずつ眠りに就かせ、熟睡することのない「イルカ」は、互いを補うかのように日々を過ごし、言葉を重ねていく。
そんな二人の関わりあいは、透明な空気感があり、読んでいてとても心地よかったです。
ただ、全体としては何かいまひとつ感情が乗り切れなかった印象。
特に、ところどころに挟まれている十三年後の「彼」の独白が、腑に落ちないというか、同じ感情になれないというか。
「彼」は「セミ」と過ごした一週間のあいだに色々な間違いをし、それが「セミ」との関係が一週間しか続かなかった理由でもあり、現在殺人の罪で留置されている原因であると悔いているわけです。
とりかえしのつかない間違いをした、と。
でも、最終的にはそんなに不可逆的な「間違い」ってわけどもなかったし。
そもそも「間違い」をひとつもしなかったら辿り着いたであろう「理想のふたりの関係」のイメージが全く想像できなかったのでねぇ。
どうもひとりで後ろ向きにぐちぐちと悩んでるようにしか感じられずに、感情移入できずじまいでした。
いっそのこと十三年後の独白は、プロローグとエピローグだけにしておいた方がすっきり読めたんじゃないかなぁ、個人的には。
とはいえ、設定とか個々のエピソードは好みだったので、この作品だけでハイさようならとするには惜しいのも事実。
ってことで、次の作品も読んでみようかと思っています。