98冊目
「名言 中原中也」
中也の詩集や研究書は数多く出版されていますが、その「肉声」に焦点を絞った本はありません。
本書では、稀代の詩人中原中也が、友人や恋人、家族などに語った言葉を集めました。
日記や手紙などにも目を通し、心に染みる名言をピックアップ。
この1冊で人間中原中也が浮かび上がります。
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基本的には詩とか和歌とかそういうものにはあまり興味がないのですが、中原中也だけは何か好きなのです。
もう15年くらい前の話ですが、「眠兎」(浅田弘幸)というマンガがあって、各話のタイトルが中也の詩のタイトルで、作中にも中也の詩が使われてたんです。
そのマンガにモロハマリして、何度も何度も読み返して、それだけでは飽きたらず最終的には詩集にも手を伸ばしたわけで。
とはいえあんまり中原中也という人物がどんな人生を送ったのか、ということをあんまり知らなかったので、この本でいろんなことを知ることができました。
巻末には年表も付いていて、中也の周囲で起こった出来事や、作品の発表された時期なんかも分かりやすく記されていて興味深かったです。
その中でも一番印象に残ったのが、中也の長男・文也のことでした。
中也が溺愛し、しかし幼くして死んでしまった文也。その時の中也の言葉がもう切なくて切なくて。
文也が死んだと知り、弔問に訪れた友人に対し
「僕たちだけでいてやりたいから帰ってくれないか」
と言い、
街を歩いている時にも、
「ああ、あそこは通らん。
あの家で文也にオモチャを買ってやったから、あの前は通らん」
と言った中也。
その悲しみの深さがひしひしと伝わってくるようなストレートな言葉でした。
そして文也が死んで約半年後。
『愛するものが死んだ時には、自殺しなけあなりません』
という衝撃的な一文から始まる「春日狂想」が発表されたのです。
本の中では関連付けては語られていませんでしたが、文也の死がきっかけとなって生まれた詩なのかもしれないと思ってしまい、何ともやるせない気持ちになりました。
作品と作者は別物で、作品をより深く知るために作者のことが知りたくなる、なんてのは本来邪道なことだと分かっていますが、それでも知りたいと思ってしまうのが人間の因果なところなのかも知れません。
それでもやっぱり、読んでよかったな、と思える本でした。
中原中也が好きなかたならば、読んでみて損はない本だと思いますよ。