95冊目
「西巷説百物語」
京極夏彦
大坂随一の版元にして、実は上方の裏仕事の元締である一文字屋仁蔵の元には、数々の因縁話が持ち込まれる。
いずれも一筋縄ではいかぬそれらの筋道を心づくしの仕掛けで通してやるのは、あの又市の悪友にして腐れ縁の『靄船の林蔵』。
二ツ名通り、死人が操る亡者船さながらの口先三寸の嘘船でそれと知れぬ間に彼らを彼岸へと――連れて行く。
「これで終いの金比羅さんや――」
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大人気シリーズの最新作でございます。
好みで言うと、百鬼夜行シリーズよりも好きなんです。こっちの巷説シリーズの方が。
「西」ということで、又市が上方に居る時の話なんだろうな、なんて相も変わらず表紙裏表紙や帯を見ずに読みはじめてびっくり。
何と林蔵が主役じゃないですか。
一作目の「桂男」を読んだ時なんか、林蔵メインだということも理解してなくて、しかも取り上げられてるのが月に住んでいる「桂男」という妖怪(?)だということもあり、着地点が全然読めなかったところでの鋭いオチ。
この一編ですっかりハマってあとはただひたすらに没頭しました。
又市とは違った林蔵のスタイルがまた良いですね。
又市の仕掛けは基本的に大掛かり。
一度始まったら周囲は怪奇な空気に包まれ、普段なら承服できないおかしなことでも納得できてしまう雰囲気ができてしまいます。
かたや林蔵の仕掛けは、基本的には現実と地つながり。
怪奇現象が起こっても、林蔵をはじめ皆が現実的な解釈をしていきます。
しかし、臨界点となるある一点を越えた時、世界はがらりとその様相を変えてしまう。
そのポイントも明確。
「ほんまにええんですな」
「今の言葉に間違いはおまへんな」
そう林蔵が何度となく質した時が境目。
徐々に濃くなる靄の中でその境目を越えてしまった時、辺りはもう彼岸。
後戻りはもう、出来ない。
そういう仕掛けが新しくて良かったです。
手を替え品を替えた6つの物語にハラハラドキドキ。その後に控えるラスト1編「野狐」には友情出演者が続々と登場してきゃあきゃあと大喜び。
とまあ、何とも文章力のない説明ではありますが、とても堪能させて頂きました。
「桂男」と「鍛冶が嬶」が特に好みでした。