66冊目
「騎士は恋情の血を流す」
上遠野浩平
あなたは恋がどういうものか知っているだろうか。
胸が高鳴り、血が巡る―それを自在に操れたら、人は恋をしていると言えるのだろうか。ただの実験に過ぎぬのではないか―これはそういう物語である。
自分だけで何でもできる男を騎士に、彼に利用される強気な女を姫君に喩えた現代の奇妙なお伽噺にして、自負に縛られて己の感情を恋と呼べない、哀れな魂どもの観察記録である。
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上の文は単行本に載っていた紹介文なんですが、内容を非常に端的に表していて、表しすぎていてある意味ネタバレなんじゃねぇかと思えるような見事な文章です。
こんないいものがあるんだからわざわざ書き加えることも無いのでしょうが、そんなことを言ってしまっても始まらないのでちょっと内容の紹介をば。
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葛城貴士は他人にはない特殊な能力を持っている。
世界一有名なバンドの歌になぞらえて『プリーズ・ブリード・ユー』と名付けたその能力は、人間の体内を流れる血流を読み、操る力。
血液以外には何一つ動かすことはできないし、血液でも動物のものや体外に出ているものは操れない。
そんな脆弱な能力だが、使い方次第では圧倒的な力となる。
脳に流れ込む血流量を減らすことで相手を操り人形のような状態にする。
体内を流れる血流を調節することにより、相手を自分の思い通りに動かすこともできる。
体内を流れる血流の状態で相手が何を考えているかも分かるし、血流を調節することで感情を操作することもできる。
貴士の幼馴染みであり最近売り出し中のタレント・七ノ輪ほのかが注目されるきっかけとなった『ジャンケン不敗伝説』も、彼が密かに能力をつかったからこそ実現できた伝説だった。
そのほかにもほのかの障害となるような人物を『プリーズ・ブリード・ユー』を使って密かに排除するなどの行動をしていた貴士。しかし、その「ありえない出来事」はとある組織の調査対象となってしまう。
その組織とは、もちろん統和機構。
調査を依頼された巳鑑巳花車は早速ほのか本人に当たり、能力者ではないと判断。周囲に能力者がいると推察して更なる調査を続ける。
一方貴士もその動きを察知し、対策を講じ始めた…
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「しずるさんシリーズ」のしずるさんとよーちゃんが出会う前のお話。
シリーズの第0話というような位置付けです。
とはいえ、話の流れは「ブギーポップシリーズ」そのもの。
従来の「しずるさんシリーズ」よりも動きや場面転換が多いのでさくさく読み進めることができました。
最初は無敵かと思える能力がほんの些細なことや僅かな発想の転換で違った一面を見せる、というのは上遠野作品でよくある展開ですが、今作ではその振れ幅がかなりすごかったです。
逆にラスト付近ではしずるさんが万能すぎたような。安楽椅子探偵ではそこまで読み切れないと思うのだがなぁ。
あと、しずるさんが何気なく言ったひとこと。
「それこそ死神が出てくる」
誰のことかは自明だけれど、なぜしずるさんがそこまで知っているのか。
ひょっとして更なるクロスオーバーがあったりするのだろうか、と今後の展開が楽しみになるひとことでした。