60冊目
「堕落論」
坂口安吾
評論あり随筆あり小説あり、と雑多な内容の一冊。
あ、集英社文庫版です。
表題作の「堕落論」は前々から読んでみたかったんです。
と言っても予備知識はあんまりありませんでした。
知ってる事と言えば、
「堕落論」は敗戦でうちひしがれている国民にその新しい価値観で強烈なインパクトを与えた、と何かの本で読んだことがあったのと、坂口安吾自身が当時の文壇で「無頼派」と呼ばれていたことくらい。
しかも「無頼派」の定義とかも知らないし。
なのでなんとなくのイメージで、退廃的でシニカルな内容なんだろうと思ってたのですが、全然違いました。
国が一丸となって戦争をしている中では、己を殺し、社会の一員として唯々諾々と国の方針に従うことは美徳であったのかもしれない。
しかし日本は敗けた。
武士道は滅んだ。
我々が持っていた価値観は地に堕とされた。
ならば我々も堕ちようではないか。
己に正直な堕落した存在になろうではないか。
幸いにもそれこそが真実の人間の姿である。
解釈は色々あるんでしょうが、そんな風に受けとりました。
「堕落論」を語る上での常套句として『戦前の価値観を公然と否定した』なんて言われていますが、そうでもないんじゃないかな、という印象。
どっちかと言うと、戦争に敗れ、拠り所とする価値観を失った人たちに『敗けたからってくよくよするなよ。逆にこういう前向きな考え方もあるじゃないか』と、あんまり本心でもない励ましの言葉をかけているように感じました。
全編通じての感想として、無頼さなんて全然なくてどっちかといえば生真面目な印象を受けましたね。
「堕落論」も面白かったけど「私的文化史観」や「不良少年とキリスト」のほうが好みでした。