38冊目
「空の中」
有川浩
国産航空機を開発し、民間輸送機として営業ベースに乗せる。
それは、かねてから日本航空機界の宿願だった。
機名を「スワローテイル」と名付けたその官民合同国産航空機開発プロジェクトは一号試験機を完成させ、何度かの試験飛行もパスし、最大のセールスポイントである超音速飛行テストにまで漕ぎ着けていた。
テストの舞台となるのは、四国沖自衛隊演習空域の高度二万メートル付近。
試験飛行が始まり、快調に高度を上げていたスワローテイルは、目標高度へと達したと同時に爆発炎上してしまう。
約一ヶ月後、戦闘機パイロットの斉木敏郎三佐と武田光稀三尉は、岐阜の航空自衛隊基地から二機編隊で飛び立ち、実験的な飛行演習を行うため四国沖の自衛隊演習空域へと向かっていた。
実験の内容は、高度一万メートルから二万メートルへの急上昇。
高度が二万メートルに達する直前、レーダーが一瞬だけ光ったことで、武田は咄嗟に回避行動をとる。
その次の瞬間、先行していた斉木の機体が爆発炎上し、斉木は返らぬ人となってしまう。
大切な試験機を失い、プロジェクト自体が暗礁に乗り上がりつつある事態を終息させるため、事故調査委員として春名高巳が岐阜基地へと派遣された。
目的は、二件の事故で唯一生き残った武田から事故原因のヒントを聞き出すこと。
武田は、話すより目で見た方が解るとばかりに春名を乗せて再び高度二万メートル付近へと飛ぶ。
そこで春名は、信じられないものを目撃する…
一方、時は遡って自衛隊機事故当日。「今日四国沖を飛ぶ」と父より教えられていた高知県在住の高校生・斉木瞬は、その機影が少しでも見えないかと向かった河口の海岸線で、巨大なクラゲのような不思議な生物を拾う。
水棲生物かと思っていたその生物は、徐々にその姿を変えていき…
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いやはや、これは恐れ入りました。イメージしてたのの倍くらい面白かったです。
そもそも読んでみようと思ったのは、「Story Seller」や「野性時代」で読んだ短編が面白かったからで、この本が長編では初挑戦。
予備知識なんて全くなく、有川浩という名を聞いて思い浮かぶ事と言えば、
・日本随一のラブコメ作家と言われている。
・「図書館戦争」シリーズで大ブレイクした。
・「陸・海・空」の自衛隊三部作というのがあるらしい。(「陸」ではなく「街」だと知ったのは本書を読んだ後でした)
ということくらい。
しかも本屋で文庫としてあったからという理由で手に取り、すぐさまブックカバーをつけてもらったのであらすじも読まず仕舞い。
そんな状態で読んだので、先が読めないこと読めないこと。
特に飛行機事故の原因が分かったあたりは、ただただびっくりでした。
たまにはこういう驚きもいいもんだ、と思ってみたり。
内容の感想は、何かもうひたすらにまっすぐで、痛快で、それでいて哀愁も漂う。超一流のエンターテイメントでした。
人数が集まれば論を戦わせて最善を探し、一丸となって挑めるのに、個人の意地や思い込みで行動すると決してうまくいかない。それがまだ十代の子供なら尚更のこと、ひとりで抱え込むのはよくない。
そんなある意味当たり前で使い古されたようなテーマがとてもしっくりくる、良いお話でした。
文庫版の巻末に付いていた短編「仁淀の神様」がまた、感涙必至で、もう。
解説でもあった通り、不特定多数の人に『読んでみて、面白いから』と薦められる本でした。