36冊目
「零崎人識の人間関係 匂宮出夢との関係」
西尾維新
【零崎一賊】
それは『殺し名』第三位に列せられる殺人鬼の一賊。
彼らは血縁ではなく、殺人鬼という属性で繋がっていて、それが『血ではなく流血で繋がる一賊』、という呼び名の所以でもある。
そんな一賊の中で唯一、零崎の両親から生まれたのが零崎人識。
一賊の秘蔵っ子である。
今作は、その人識が汀目俊希という名で未だ中学校へ通っていた頃の話。
卒業を間近に控えたある日、先の竹取山決戦(『零崎双識の人間試験』参照)で知り合った『殺し名』第一位・匂宮雑技団の次期エース・匂宮出夢が、人識の通う中学校に訪ねて来たことが発端だった。
一人では難しそうな仕事依頼を受けたため、人識に手伝ってほしいのだという。
何故か澄百合学園を脱走し人識の元にやってきた、これまた竹取山で知り合った狂戦士・西条玉藻を含めた三人は、匂宮出夢をして難しいと言わしめた依頼、人識や出夢が属する世界とは別の『経済力の世界』で次期トップと目される玖渚直の暗殺、へと向かう。
その先に立ちはだかるのは直木三銃士。
今は少数精鋭だが、今後順調に成長すれば『殺し名』に匹敵するであろうとまでに言われる新進気鋭の集団だった…
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『戯言シリーズ』のスピンオフである『人間シリーズ』の四冊同時刊行で発表された完結編です。
作者曰く、同時刊行の四作品でこの作品を最終巻とする場合、『戯言→双識→伊織→出夢』の順で読むのがオススメだそうです。
人識と出夢の関係がなんだかとっても思春期でよかったです。
特に出夢。
『殺し名』の中で最大かつ最高の戦力を誇る匂宮が行った『開発』の中で、決して成功ではないもののその強さ故に存在を認められていた出夢が、直木三銃士との戦いをして経て、自分の存在意義とか、しがらみとか、そういったものを再認識してしまうちょっと切ない話でした。
仮定そのものが無益だとは思うものの、出夢が匂宮ではなかったら、人識が零崎ではなかったら、もっと『まし』な結末が待っていたんだろうな、とか考えてしまい、なんだか切なくなってしまいました。
いやしかし避けられない話題として、『戯言シリーズ』を読んでる方々なら本書を読まずとも誰の事かすぐ分かるだろうとは思うものの一応人物名は避けますが、最後らへんに『人類最悪』の人が出て来るんです。
いやほんとにあなた、大した理由もなしに周りを不幸にしないでくれよ、と言いたい。本当にアンタ最悪だよ。
「ネコソギラジカル」のあの結末を知ってしまっている身としては何ともやりきれない気持ちになってしまいますが、幸せだったかどうかは分からないものの、きっと楽しい人間関係だったんだろう、と思うことで何とか救われたように感じるしか、思いこむしか、無いような、そんな哀愁漂う物語でした。