11~12冊目
「輪違屋糸里」(上下巻)
浅田次郎
文久三年秋、新撰組の局長芹沢鴨が暗殺された。
場所は壬生の郷士前川邸。
芹沢と愛妾お梅、平山五郎とその馴染みである芸妓桔梗屋の吉栄、平間重助とその馴染みである芸妓輪違屋の糸里、計六人が寝ていたところに刺客達が侵入し襲撃。芹沢・平山・お梅は斬殺され、平間の死体は無かったがそのまま新撰組に帰ってくることはなく、吉栄と糸里は難を逃れた。
もう一人の局長である近藤勇を始めとする新撰組は長州志士の犯行だと発表し、芹沢と平山の葬儀を執り行った。
しかし実際には、試衛館閥の隊士達が実行したとする説が有力である。その理由は、目に余る行動が目立つ芹沢の処断を京都守護職松平容保らに依頼された為。局長が二人いる不安定な現状から近藤を頂点とした形へと組織を作る変える為。等と言われている。
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上記が一般的な「史実」です。
この最終形を変えることなく、事件に近い四人の女性の視点で描かれたのが本書。
芹沢に愛情こそないものの、その不器用さや情けなさに共感めいたものを感じるお梅。
平山に心底惚れ、また平山からの愛情を感じるがため、二人で所帯を持つという叶わぬ将来を夢みる吉栄。
同じ屋根の下に暮らすうちに芹沢や平山・平間たちの表には出さない素の部分を垣間見、次第に親身になっていく前川家の女房・おまさ。
そして糸里。
姉のように慕っていた音羽太夫が芹沢に無礼討ちにされ、好意を抱く土方は振り向いてもらうどころか理不尽な仕打ちばかり。そして芹沢暗殺の協力まで持ちかけられてしまう。
四人が四人とも、世間や時代や常識や運命など色々なことに対し、抗いたくても抗えないと心のどこかで思いながらも、それでも必死に生きていく姿には胸を打たれます。
そしてまた芹沢も平山もかっこいいんですよ。平間も新見錦も。
これまで読んだ本では、平山たちはほとんど端役の扱いでした。多分新撰組の小説全体でもその傾向は強いと思います。それをここまで詳しくかっこよく書き切った筆力にはもう、感服です。
芹沢はたまに主役級の扱いを受ける時もありますが、『計算ずくで乱暴を働く狡猾な男。彼なくしては、新撰組は会津藩お預りにまでなれなかった。だけど最後は油断してお陀仏』という人物像が多いです。
でもこの芹沢は、強さも弱さも、明るさも暗さも、潔さも見苦しさも、すべて備えていてもう感情移入しまくりでした。
これまで読んだ中で最高の芹沢鴨でした。
逆に土方が好きな人にはちょっとしんどいかも。
近藤や沖田はほんのり見せ場もあるんですが、土方は基本かませ犬ですので…。
「壬生義士伝」では感動のあまり涙流しまくりだったのでそういうのを期待していたんですが、あんまりそういうではなく。けれどかなり面白かったです。
浅田作品はまだ「壬生義士伝」とこの本しか読んだことないんですが、他のも読みたくなってきました。
別の時代ものとかないかなぁ。